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まるで監視するかのような歩の視線。そんなもの無視して話を続ければいいのに、幸は「続きはまた今度」と言って教えてくれない。
それなら邪魔な歩をなんとかしようと、俺は向き直る。
「歩、そろそろ次の授業行かなきゃ遅れるぞ」
「お前は時計の見方も知らないのか。まだ20分ある」
「でもトイレ行ったり、移動する時間がかかるだろ」
「トイレはさっき行ったし次はこの上の階だから安心しろ。余裕だ」
いつもだったら簡単に人の話を切り上げてしまうくせに、今日に限っては最後まで粘ろうとする歩が笑う。ここは空気を読んで出て行ってほしいのに……ちっとも動こうとしない歩を睨みつけた。
もちろんそれは鼻で笑われただけに終わり、悔しくて仕方ない。
「まあ、たまには歩とゆっくり過ごすのもええやん」
幸がすかさずフォローしてくるけど、俺と歩の間には見えない稲妻が走っている。
昔から歩とはよく言い合うし、対立してきた。だから今回も俺が引くなんて考えはない。
「おい金髪。お前、勉強ができるからって空気読めなきゃ社会人になれねぇからな」
「は?勉強すらできないバカに言われたくない」
「俺はできないんじゃなく、しないだけだ!」
「それをできないって言うんだよ。バカウサギ」
ニヤリと笑った歩が、俺の手元からパンを奪う。
端から食べ始め、ようやくクリームがたっぷり入った部分に差し掛かった貴重なクリームパンを。
大きな口でかぶりついた歩は、躊躇うことなく1番美味しいであろう部分を奪い取った。溢れたクリームが端から零れ、俺は絶望で固まる。
「あっま……よくこんなの食えるな。幸、焼きそばパンとかねぇの?」
「あるで。ほんま歩はどれだけ食っても太らんよな」
「俺はどこかのバカと違って、頭働かせてるから。ちゃんと比例した燃費だ」
俺の手にパンが帰って来た。楽しみにしていた部分が欠けた、クリームで汚れたパンが。
ふるふると震える理由は怒りだ。
変なところで話を途切れさせ、人の楽しみを奪った悪魔をこれでもかと鋭い目で睨む。睨むだけじゃ足りず、歯ぎしりまで付けてやる。
すると悪魔は金色の髪を掻き上げ、首を傾げた。
「お前もしかして焼きそばパンも狙ってたのか?たいして頭使ってないくせに、食べすぎじゃね?」
「違う!!」
「どうでもいいけど早く食えよ」
幸から受けとったパンをものすごい早さで食べ終えた歩が言う。押し込む為に飲んだジュースは俺用にと買って来てくれた物で、まだ口をつけていなかったそれは、歩によって半分以下に減ってしまった。
人をバカにし、人の物を奪い、それでも悪びれる素振りのない歩。さすがの幸もフォローできないのか、黙って俺たちを見守っている。
いや、関わりたくないだけかもしれないけど。
湧き上がった怒りは頂点を越え、俺は歩を指さして宣言してやろうとした。
「歩!今日こそお前とは絶」
「あ、俺今日そっちの家泊まるから」
「交だ──……って、え?今何て言った?」
「大学終わったら、そのままお前達の家に行って泊まるって言ったんだよ」
『なんで』と『嫌だ』と、『どうして』と『どうしよう』が頭の中で入り混じる。
そのどれもが口から出ようとして、けれど同時には出なくて渋滞した。上手く舌が回らなくて言葉にならない。
うんうん唸る俺を一瞥し、歩が席を立つ。幸と一言二言交わし、また俺を見た。
ゆっくりと身を屈め、至近距離で歩が囁く。
「登校拒否野郎の味方しやがったら、慧であろうと容赦しねぇからな」
ニヤリと黒い笑みを落とし、背を向けてしまった歩からは下手過ぎる鼻歌さえ聞こえる。相変わらず変わらない音痴に幸は吹き出すが、俺はそれどころじゃない。
超絶生意気な鹿賀と、何を考えているのかわからないリカちゃん。そして、何故か喧嘩する気満々の歩。
俺とリカちゃんがベッドで眠り、鹿賀がソファで眠っている今、歩はどこで寝るつもりなんだろうか。
まさか3人でベッド……それなら当然、リカちゃんが真ん中だろう。いくらベッドのサイズが大きいからって、男3人は平気とは思えない。
だからって鹿賀と歩がリビングで寝るのは無理があるし、ここは全員徹夜でゲームでもして過ごすべきかもしれない。
徹夜で盛り上がれるゲームがあったか考えて、問題はそんなことじゃないと思い直す。
人はパニックが過ぎると、どうでもいいことを考えてしまうらしい。
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