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リビングにいる俺と歩を見たリカちゃんは、特に何を言うでもなくキッチンへと向かう。
部屋に残されたのはソファに座る歩とフローリングに直に座る俺、そして入り口の近くで突っ立っている鹿賀だ。第一声を誰が出すのか、ドキドキしながら見守る。
「類は友を呼ぶってやつですかね」
先に口を開いたのは鹿賀だった。俺と歩を見比べて頷き、そっと俺の近くに来て腰を下ろす。
窺うように見た歩の口元は歪んでいて、さっきの鹿賀の台詞が良い意味じゃなかったのだとわかった。
先制攻撃は鹿賀から。けれど、歩が黙って受け入れるわけはなく、鋭い目で鹿賀を睨みつける。
俺や拓海だったら固まってしまうそれにも、鹿賀は平然としていた。平凡な見た目のくせに、その度胸はすごくて、こういうところだけは認めてやってもいい。
妙に強気な鹿賀に少しだけ感心していると、歩の視線が俺へと移る。無言での「てめぇ、なに仲良く隣に座ってんだよ」に首を振って、顔を背けた。
「で、この人は誰なんですか?」
これは鹿賀から俺への質問だ。なんで俺に聞くんだって思ったけど、よく考えたらリカちゃんがキッチンにいるのだから俺に聞くしかない。
そして俺は答えるしかない。
「こいつは俺の友達で歩で……でもってリカちゃんの弟」
「弟?こんなに頭の悪そうな不良が先生の?」
『頭の悪そうな』のフレーズに歩の眉が動く。軽く跳ねた眉尻は下がることはなく、明らかに鹿賀に対して苛立っていた。それなのに鹿賀は気にしないのか、歩をまじまじと見て鼻で笑う。
「それって、先生の黒髪に対抗しての金髪ですか?」
歩の髪を指さし、鹿賀が訊ねた。人を指さしちゃ駄目だとか、先輩には敬語を使えとか、とにかく注意すべきことはたくさんあった。けど、俺は黙る。
この2人の間に入りたくなくて、できたら何事もなく済んでほしいと願ったからだ。
「見た目は少し似てるかなと思ったけど、中身は真逆ですね」
けれど全く空気を読まない鹿賀は、俺の願いを無視して、黙っている歩に対し一方的に話し続ける。
元から鹿賀は口数が多い方だけど、それにしても今日はよく喋るなと思った。歩が何も言わないから余計にそれが目立っていた。
リカちゃんと歩を比べる鹿賀は、俺が心配していた通りの反応を見せた。
比べられるのが嫌いな歩にそれはアウトだし、口煩いのも嫌いだし、なにより歩は上から物を言われるのが大嫌いだ。それを許されているのは、この世でリカちゃんしかいない。
歩にとって自分より上にいるのはリカちゃんだけ。なんとかして、このことを伝えなきゃいけない。そうしなきゃ、リビングが地獄になってしまう。
「か、鹿賀……お前、そろそろ黙ったら?」
やんわりと止める俺を、鹿賀が見る。
「思ったことを言っているだけなのに駄目なんですか?やっぱり見た目通り気も短いんですね」
「いや別にそれは……ほら、歩ってマイペースだから。あんまり一気に話しかけても無駄っていうか」
「え?これぐらいのスピードで喋っても理解できないんですか?先生の弟なのにバカ……遺伝子の無駄遣いですね」
止まらない鹿賀の皮肉。歩の反応が怖すぎて俯いた俺は、視線だけを上げて盗み見た。
目線の先には無表情で箱から出した煙草を咥える歩がいる。相変わらず眠たそうで、何も考えてなさそうで、けど何かしでかしそうな歩がいる。
静かな動きで煙草に火を点ける。リカちゃんから貰ったらしいジッポを使って深く吸い込んだ息を吐き、また息を吸って吐く。
いつもと変わらない仕草の中で、歩がいつもと変わらない笑い方をした。
いや、いつもと変わらないのではなく、いつも以上に黒い笑い方かもしれない。ずっと閉じていた歩の唇がゆっくりと開いた。
「あのさ、言いたいことあるなら要点まとめてから喋れよ。そんな中身のない話してる方が無駄だと思うけど」
チラリと鹿賀を見た歩も鼻で笑う。それは、さっき鹿賀がしたものよりも様になっていて、これこそ本物だと思える笑い方だった。
鹿賀がどれだけ悪く言っても相手にしなかった歩が、やっと正面から鹿賀に向き合う。
リカちゃんと同じ強い眼差し。簡単にそらすことのできない、特殊なあの瞳で鹿賀を見つめて唇を歪ませる。
「そうやってキャンキャン喚いてると、ビビッてんの丸わかりだから。相手を怯ませたいなら、もっと頭使った方がいいんじゃねぇの」
細く煙を吐いた歩が一言「時間と体力の無駄遣いですね」と付け加える。
言われた嫌味以上を返した歩に鹿賀は完敗し、悔しげに唇を噛んだ。
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