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久しぶりに入る拓海の部屋。高校生の頃はよく来ていたのに、学校が違う今はほとんど来なくなって、懐かしさを感じる。
歩ほどではないけど散らかった室内には、あの頃にはなかったものがある。例えば俺が使うのとは全然違うハサミや、大きなヘアクリップ。拓海が前髪を留める時に使っていたそれより、一回り近くも大きい。
俺と鹿賀が拓海の家に着いた時、遅い時間だったのに拓海は起きていた。テーブルには広げた雑誌や教科書が乗り、その傍には何本もペンが転がっていて、学校の課題でもしていたんじゃないかと思った。
「来るならもっと早く連絡しろよ。急に2人分なんて言われても困るだろ」
小声で怒る拓海に謝り、背後にいた鹿賀を突き出す。初めて顔を合わせた2人に、そういえば鹿賀は意外に喧嘩早かったことを思い出した。
ここで拓海と喧嘩されたら困る。非常に困る。だから鹿賀の肘を小突き、要らないことを言うなと注意しようとした……けれど。
「あ、この子が言ってた居候君?うわー、思ってたより普通!」
にかっと笑った拓海が鹿賀の肩を叩く。
「俺の名前は鳥飼拓海な。慧と歩の……って、歩は知ってんの?」
「知ってます。獅子原先生の弟」
「そうそれ。それの友達してんだけど、居候君の名前は?」
「鹿賀です。鹿賀竜之介」
鹿賀が名前を言った突端、拓海の目がきらきらと輝く。その口元が小刻みに震え、拳を握りしめた。
「竜か!いいな竜!!竜はいいぞ!」
「……はあ?」
多分だけど、俺と鹿賀は同じことを思っただろう。竜の何がいいのか理由がわからない。それなのに拓海は「いいな」を連呼し、鹿賀に満面の笑みを振りまく。さすがの鹿賀もそれには嫌味を言う気にはなれなかったのか、少しだけ挙動不審だった。
戸惑っている鹿賀……それが面白くて吹き出してしまったぐらいだ。
「なんで笑ってるんですか?」
「いや、お前も拓海相手だとおとなしいなって」
「おとなしいって。特に何も言うことがないだけです」
ふん、と顔を背けた鹿賀が固まる。一体どうしたのか、鹿賀の視線の先を追うと、そこには目を見開いた生首が転がっていた。
「ヒッ……!」
そいつとばっちり目が合って、俺の口から短い悲鳴が出る。気づいた拓海が「ああ」と生首を手に取った。
俺と鹿賀を凍らせた、生首を。
「悪い。練習してて片付けるの忘れてた」
「な、拓海……それ」
「ただのマネキンだって。慧も鹿賀も驚き過ぎだろ」
拓海はそう言うけれど、感情の全くない瞳は凝視してくるし、それが微かに笑っているように見えて怖い。思わず鹿賀を突き出してしまうと、激しい抵抗と強めの口調での非難が返ってくる。
「ちょっ、怖いからって押さないでくださいよ!」
「無理。俺こういうの無理」
「僕だって怖いんですから!」
「ほら、お前なら平気だろ……って、え?お前も怖いのか?」
鹿賀は嫌いとか、怖いとか嬉しいとか、そういった決定的な言葉は言わない。いつも濁らせてばかりなのに、今はっきりと『怖い』と言った。
「鹿賀もお化けとか怖いタイプ?」
訊ねると嫌そうな顔が向けられる。
「お化けなんて見えないものは平気です。僕は見えるものしか信じないんで」
「それって見えないから怖くないだけで、見えたら怖いんだろ?」
「怖くありません。見えませんから!」
あまりにも幼稚な屁理屈に笑いが込み上げ、口を押さえてそれを耐える。けれど鹿賀には笑っていることがバレて、顔を赤くして怒られた。
そんな俺たちを見て、拓海がしみじみと呟く。
「なんかさ、2人って似てるよな。こう……そっくりってわけじゃないんだけど、例えるなら兄弟みたいな感じ」
その一言に眉が寄り、はっきりとした皺が眉間に刻んだ。しかもそれは鹿賀も同じだったようで、また拓海に「似てる」と笑われてしまった。
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