アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
158
-
**
学校に向かった拓海を見送り、俺と鹿賀は思い思いに過ごす。部屋に置いてあるゲームでもしようと誘ったものの、鹿賀は首を縦に振らなかった。
部屋の中にある生首を飽きもせず眺め、拓海がと置いて行った本を捲る。それは鹿賀がよく読んでいる難しい本じゃなく、拓海が授業で使っている教科書だ。
「なあ、お前そんなの読んで楽しい?」
聞くと顔を上げた鹿賀が頷く。
「こういう話題に触れることがなかったから、楽しいです。勉強とは全然違った知識が身につきますよ」
「へぇ。俺には必要ないものだけどな」
髪についての知識も、どんな髪型が流行なのかも興味ない。そう言えば鹿賀は顔を顰めた。
「それは兎丸くんが恵まれているからですよ。飾らなくても目を惹く外見と、ありのままを受け入れてくれる人がいるから」
「そうか?」
「少なくとも獅子原先生は兎丸くんの外見を気にしたりしない。先生の弟も、鳥飼くんも兎丸くんの悪いところを知っていて、それでも友達じゃないですか」
鹿賀の言う通りだと思った。リカちゃんは俺がどんな格好をしていても隣にいてくれるし、歩や拓海だってそういうのを気にしたりしない。
まあ……と言葉を濁す俺に、鹿賀は続ける。
「見栄を張る必要がない、嘘ついて無理に合わせなくていい。そういう人が周りにいるって、すごく恵まれていますよ」
「なんかお前が言うと重い」
「でしょうね。わかって言ってますから」
1日ですっかり元に戻った鹿賀が意地悪く笑う。皮肉たっぷりのその笑顔の裏に、鹿賀の本音が隠されていることを知ってしまったた俺は、何も言い返せなかった。
俺は無理に合わさなかったんじゃない。合わせなくていい環境にいただけだ。拓海や歩と仲良くなり、リカちゃんという恋人ができた。その全員が俺の悪いところも許してくれるなんて、鹿賀にとっては奇跡みたいなものなんだろう。
「……俺が悪い、のかな」
ぼそりと呟いた声が部屋の中で響く。
「どうしたんですか、急に。昨日までは俺は悪くないの一点張りだったのに」
「いや、色々考えてみたんだけど。お前が言ってたチャンスっての、俺も貰ってたなって気づいた」
リカちゃんは俺に何回も確かめてきた。最初に鹿賀のことで揉めた時も帰って来てくれたし、その後だって急には怒らなかった。
だからって全ての非を認めるわけにはいかないのが、俺の性格だけれど。
「なあ、鹿賀も俺が悪いって思うか?」
素直に意見が欲しくて鹿賀に問いかけると、鹿賀は持っていた本を閉じ、姿勢を正す。
「僕は別に兎丸くんが悪いとは思わないです。けど、先生が悪いとも思わない」
「また自分が悪いって?だから、何回も言ってるけどお前は関係ないんだって」
「じゃなくて。どちらか一方だけが悪い状況って、そんなにないと思うんです。中には理不尽なこともあるけど、今回の場合はお互い様だと思います」
「そんなもん?」
「確かに僕はいじめられていたけど、その原因を作ったのは僕です。でも、だからっていじめを肯定するわけじゃない。兎丸くんだって理由があって怒って、けど勘違いさせたのは先生です。だから兎丸くんだけが悪いとは言いません」
なんだか難しい話になってきて、頭が痛い。考えたくないと全身が訴えてくるけれど、それを我慢して鹿賀の言葉に耳を傾ける。
「先生は、兎丸くんに自分の意見を押し付けない。だから兎丸くんは何もわからなかった……それだけです。でも、言葉って大事じゃないですか。言い方によっては嫌味にも褒め言葉にもなりますし」
「──それをお前が言うか?」
「それで失敗したから、いじめられたんですよ。経験者の意見って為になりません?」
自虐的に笑った鹿賀は、かなり図太いと思う。あれだけ隠していた秘密を、今は自分から話のネタにできるんだから。
しばらくして拓海が帰ってきて、用意を終えた2人に促され家を出る。仲直りしろよと拓海にまた言われ、俺は1人になって気づいた。
「帰るにしても鍵がない……」
財布とスマホだけを持って飛び出したから、家の鍵がない。リカちゃんはまだ仕事中だし、歩とは喧嘩中だし……楽しそうに出かけて行った拓海たちを呼び出すのも気が引ける。
「どうしよう。リカちゃんは……仕事、だもんな」
まだ昼を少し過ぎた頃。この後何時間も待つなんて絶対に無理で、途方に暮れていると突然スマホが震えた。映し出された名前を見て、飛びつくようにそれをとる。
「あっ、ウサマル?!休むんなら先に言ってや!俺1人で寂しくて死にそうなんやけど」
電話口から聞こえた幸の明るい関西弁が、今日も俺を助けてくれる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
975 / 1234