アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
167
-
俺は幸を嫌いじゃない。リカちゃんに幸の欠片を求めるほど好きで、いいやつだと思っていて、こんなことをされている今だって嫌いだとは思えない。
「俺は、俺は幸を」
もう傷つけたくないと思うのに、心が幸を拒絶する。動けない身体の代わりに嫌だと叫び、やめろと怒鳴っている。
「嫌い?ウサマルは俺が嫌いなん?」
訊ねらて首を振る。そんなわけないって気持ちをこめて、左右に振って否定した。
それなのに、湧き上がってくるのは嫌悪だ。嫌いじゃないはずの幸を『気持ち悪い』と思ってしまう。それが嫌で、でも押さえられなくて唇を噛んだ。
無言になったことで納得したとみなしたのか、幸が顔を寄せてくる。その影が大きくなり、もう駄目だと思った時、自然と身体が動いた。
あれだけ重たかった身体が無意識に幸を拒絶した。
突っぱねた手も、距離をとろうとして立てた膝も。嫌だと言い続けた心も、やっと全てが1つになって、同じ動きをする。
「それ以上俺に近づくな。俺に触っていいのは、リカちゃんだけだ」
幸が目を眇める。初めて見たその表情はすごい迫力で、けれど負けたくなくて続ける。
「俺は幸とこんな事をしたいと思わない。今すぐやめろ。やめなきゃ殴る」
幸が本気できたら、勝てないことはわかっている。それでも屈しない俺を凝視する幸の目が痛かった。幸の行動次第で、全部が壊れてしまうのが怖かった。
「ウサマル、俺の話聞いとったやろ?可哀想やと思わんの?可哀想やから、俺の気持ちに応えたろって。優しくしたろって思ってくれへんの?」
真剣な声で訊ねてくる幸に首を振る。思わないと伝える為に。
「なんでバンビちゃんは庇って、俺のことは否定するん?」
「幸にだって優しくしたいとは思う。でも、俺は絶対に応えない。そんなことしたら……リカちゃんがもっと傷つく」
「それって可哀想な俺よりも、そっちを選ぶってこと?」
「俺は……俺は、幸がどんなに可哀想でも、どんなにいいやつでもリカちゃんを選ぶ。リカちゃん以外はいらない」
きっぱりと告げて、幸を睨む。もし強引にでも迫ってくるなら、力任せに暴れて殴ってやるつもりだった。
少しして、頬に当たっていた手が離れた。どんどん降りてくる幸の唇がアップになって、もう触れそうな距離までくる。
効果のない突っぱねた手を呪いつつ、最終手段の頭突きをしてやろうと、強く目を瞑って準備を始めた俺の真横で『ゴツン』と鈍い音がした。
硬いもの同士がぶつかるような、そんな音。
目を恐る恐る開けると、もうそこに幸はいない。見えるのは天井だけで、けれど真横に温もりを感じる。
俺の耳の傍に額を打ちつけ、床につっぷした赤い頭。顔の見えない位置で聞こえる、低いうめき声と深い息。
「ほんま……ほんま良かった。このまま受け入れられたら、どうしようかと思ってめっちゃ焦った……」
反動をつけて隣に仰向けで寝転んだ幸が俺を見る。その目は大学で魅せるのと変わらない、優しい色をしていた。
「さ、幸、どういうこと?」
事態が把握できず、ただただ戸惑う俺を瞳に映した幸が口を尖らせる。
「いくら相手が弱ってそうに見えても、隙は作ったあかんて。俺が同情してるのにつけこむ悪いやつやったら、今頃襲われてんで」
伸びてきた幸の手が鼻に触れる。その先を抓まれ言われたのは「わかった?」という確認の言葉だ。それに渋々ながらも頷くといつも見てきた幸の笑顔がやっと見ることができて、力が抜けた。
「お前……マジで腹立つ。幸のくせに、毛玉のくせに!」
「だって、ウサマルがあまりにも幸が可哀想って顔してんねんもん。これ押したらイケるんちゃうって思うやん」
「思わねぇよ。思ったとしても実行しねぇよ」
「せやけどな、いくらウサマルが好きでも、さすがに男とチューはでけへん。俺の唇は女の子専用にできてるねん」
してくれなんて死んでも頼まない。そう言うと幸は「死んだら頼まれへんやん」とバカにしたように笑う。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
984 / 1234