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まだ幸の重みが残っている身体を起こす。起き上がった俺を見た幸も同じようにして、2人並んで座った。広いとは言えない部屋の中で、それでも隣合って座る俺たちは、傍目から見たら少し変だろう。
「幸、気づいてたんだな。リカちゃんが男だって」
「ん?ああ、まあ……前に言ってた話したい事がそれやと思ってたし。それに、ウサマルから聞くリカちゃんの話がなぁ」
眉の上を掻いた幸が苦笑した。軽く睨んだ俺を見て、それは更に困ったように変わる。
「自分じゃ気づかんやろうけど、ウサマルって守られてますオーラ出てんねん」
「守られてますオーラ?」
なんだそれは、と不思議になる。そんなこと今まで言われたこともなければ、聞いたこともない言葉だからだ。
「なんだよ、その守られてますオーラって」
「色で言うとオレンジやな。なんて言うか……強いて言えば、この子は人の嫌なところを見てへんねやろなって思ってた」
移動した幸の指が髪を耳に掛け、現れた輪郭に何個も穴が見えた。ピアス穴がそんなに開いてることを知らなくて、とても驚いたけれど……よく考えれば、俺は幸のことを本当に知らない。
さっき聞かされた過去の話がどこまで本当で、どこから冗談なのかとか。もしかしたら全部が冗談かもしれないし、その反対だってある。
その『見えない幸』のことを、俺は何も知らない。
それに言いようのない気持ちが募ってきて、黙る。すると幸は怒っていると勘違いしたのか、突然慌てだした。
「ウサマル、やっぱり怒ってる?嘘やで、チューぐらいならしても……いや、無理や」
「無理なのかよ。っつーか、しなくていいから。そんなことしたら、リカちゃんが絶対に許さないって」
「ほんまそれな……なんなん、あの人めっちゃ怖いやん。前の合コン時と別人やった」
わざとらしく肩を抱えた幸が言った台詞。初めて聞いたその内容に、無意識に食いついてしまう。
「お前、リカちゃんと話したのか?!いつ、どこで?!」
「えっ?あ、あー……夢の中で」
「嘘つけ。いいから吐けよ、早く吐け!」
わざとなのか、それとも勢いで言ってしまったのか。明らかにしまったという顔をするから後者だろう。
詰め寄った先の幸は一向に目を合わせようとせず、点けっぱなしだったテレビを映している。それを近くに転がっていたリモコンで消してやると、やっと観念したのかため息をついた。
「ほんまに偶然やねん。大学で電話してる歩見つけて、その会話の中でウサマルの名前聞こえたから……俺、ウサマルやと思って取りあげたってん。ウサマル来てなくて寂しいでって叫んだらそしたら……」
「そうしたら?」
「めっちゃ低い声で、俺の方が何百倍も寂しい思いしてんだよって。それに驚いて固まってもたら、聞こえてんのかって聞かれて、思わず謝ってもた」
なんとなくわかる。幸の言いたいことがわかってしまう。
機嫌の悪い時のリカちゃんは、俺以外にはすごく冷たくて、口が荒くて俺様だ。俺だと思って話した相手が別人で、しかもほぼ知らない相手だったら驚いて当然だろう。
けど、それはリカちゃんには通用しない。そこで本能的に謝った幸は正解だ。
「なんやねん、これ幸いと色々言いやがって。しかも、あの時の合コンのこと言うねんで?!いつの話やねんって言いそうになったわ」
「……言ったのか?」
「言えるわけないやろ。もちろん素直に謝った」
グッと親指を立てた幸が決め顔をする。それを見て、幸ってこんなやつだったか違和感が湧いた。
いつもは冷静で、バカだけど飄々としている幸。いくらリカちゃんの機嫌が悪かったとはいえ、幸なら言い返しそうだと思う。
現に、前に大学で会った時はあまり雰囲気が良くなかったような覚えがあるのに。それなのに、今の幸からはリカちゃんに対する嫌な感情が感じられなかった。
「幸ってリカちゃんのこと嫌いだと思ってた。あ、リカちゃんって言うのは、牛島理佳の時のだけど」
俺の言葉に幸が瞬きをする。
「なんで?」
「だって、前の時あんまり良くなかったし。仲というか、雰囲気が」
「ああ、だって俺、人間不信やからな。あの時は、もしかしたらウサマルが騙されてんちゃうかと思って、めっちゃ警戒しとったもん」
あっけらかんと言った幸に、その理由を訊ねることはしない。それは、きっと過去のことが原因だとわかるからだ。
やっぱり、幸の言ったことは全てが本当……本当のことだった。
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