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「初めは仕事だから仕方なくだったんだけどね。話を聞いてるうちに、本当に慧君に似てるなと思って、なんだか楽しくなった。正確には出会ったころの慧君にだけど」
「俺はあんなに捻くれてない」
「確かに慧君の方が少し可愛げがあったね。けど、ビクビクしながらこっちの様子を窺うところとか、それなのに突っぱねるところが全く一緒」
リカちゃんが思い出し笑いをする。それが鹿賀のことを思い出してなのか、それとも俺なのかがわからなくて、なんとなくスーツの裾を引っ張った。
「ん?」
首を傾げるリカちゃんを、俺は軽く睨む。
「誰のこと考えてんの?」
「え?」
「そうやって、誰のこと考えて笑ってんだよって聞いてる」
珍しくきょとんとした顔のリカちゃんが止まる。けれどすぐに言われたことを理解したのか、思い出し笑いが嬉しそうな笑みに変わった。
「俺が考えるのは慧君のことだけだって。学校の時と家とのギャップを思い出してたら、懐かしくて」
リカちゃんが、頬杖をついている左手ではなく右手を伸ばしてくる。それは俺の頬に当たり、手のひらが上下に動いた。
頬を撫でられているとわかった時には、文句を言う隙も与えられずにリカちゃんの口が開く。
「本当の鹿賀は不器用で寂しがりで、でもプライドが高い。自分が悪いって言いながら、あいつは心の中では自分の非を認めたがらない」
「そう……なのか?あいつ、泣くほど反省してるみたいだったけど」
「今はね。これだけ人を巻き込むとは思ってなかったんだろうな。それに、まさか慧君が自分と対等に接してくれるとも思ってなかっただろうし」
頬に触れるリカちゃんの手が、褒めているみたいな動きで撫でる。それは本当に鹿賀と仲良くしたことを怒っていないみたいで、じゃあなんで?と疑問が浮かぶ。
その疑問を視線に乗せて訴えると、触れていた手がゆっくりと離れて行った。
「俺は慧君の友達付き合いにまで口を出す気はないよ。そこまで干渉しちゃったら、慧君らしさが減る。それは俺にとって、すごく辛いことだからね」
「そう言うくせに、鹿賀のことは怒ったじゃねぇかよ」
思わず口を尖らせてしまうと、今度はリカちゃんの指がそれを突いた。何かと触ってくるリカちゃんに嬉しいような、でも納得できていないから複雑な感じだ。だからそっと振り払う。
意外にも簡単に離れてしまった指先が寂しくて、後悔したなんて秘密だ。
「あの時の慧君は、鹿賀の何も知らなかった。鹿賀が見せているところだけで判断して、俺が悪いんだって決めつけただろ?」
その通りだから頷きたくて、素直に頷くのも嫌でリカちゃんを見つめる。するとリカちゃんは、一瞬だけ目を伏せ、上げたそれを細めた。
「俺はね、それを利用したんだよ」
「利用?」
リカちゃんの指す『それ』って何だろう。利用したなんて良くない言葉を使って何を、誰を利用したんだろう。
胸の奥がざわざわと騒がしい。変にドキドキして、続きを知りたいようで知りたくないけど、やっぱり知りたい。
「利用って何を?」
問いかける俺の頭をリカちゃんが撫でる。どこかに触れていないと落ち着かないのか、離れてはやってくる手を受け入れる。
「慧」
急に呼び捨てにされ、肩が跳ねた。怒られるんじゃないかって恐怖じゃなく、本当に純粋に驚いただけ。それぐらい、リカちゃんは普段は俺を呼び捨てにはしない。
真っすぐに見つめてくる瞳に映る自分。どこまでも俺を見つめるリカちゃんが目をそらさずに言う。
「俺は自分の為に鹿賀を利用した」
校庭からは部活動の声が微かに聞こえ、部屋の中にはエアコンの風の音が鳴る。カーテンの隙間から入ってくる細い光は、電気に負けて見えない。頬杖をして隠れた指輪は、それを反射することはない。
2人だけの空間で言われたことの意味を考えて、俺の口から出た言葉は。
「なんで?」
すごく単純で、考える必要なんて全くない3文字だった。
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