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233 (R18)
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何が不満なのだと聞かれたら、不満なんてないと迷わず答えることができる。
何が不安なのだと聞かれたら、少し躊躇った後に不安なんて感じないと笑えることもできる。
ただ少し焦っているだけ。自分の知らない慧の一面を見て、自分とは違い過ぎる環境に切なくなっただけ。
腰の辺りで揺れる柔い茶色。細くて指触りの良いその髪は、高校生の時よりも少し短く整えられている。まるで持ち主の視界を邪魔しないよう、世の中がよく見えるかのように。
それでも髪質は変わっていなくて、指を差し入れれば沿うようにして流れ落ちる。そっと撫でれば綺麗に収まる。
一束を手に掬い、じっと見つめていると、不意に視線だけを上げた慧と目が合った。
責めるように鋭くて、咎めるように意志の強い瞳。自分がここまでしてやっているのに、他のことを考えているだろと言われている気がして、苦笑が漏れる。
「……っ……はあ…………」
ひんやりとした壁にもたれ、少しだけ力を抜いて。与えられるものは快感というには物足りないけれど、それでも伝わってくる必死さが嬉しい。
口下手な慧からの、言葉以上の想いが嬉しくて自然と吐息が零れ落ちていく。
「慧、君……膝、大丈夫?」
床についた両膝が心配で訊ねると、眉根を寄せていた慧が顔を上げた。とは言っても、口にはそれを銜えているのだから、僅かではあったけれど。
「うるせぇ。そんなのいいから、こっちに集中しろ」
「ベッドに移動する?」
当然のことを聞いたはずが、返ってくるのは無言だった。音にしない拒絶の代わりに、俺のものを包む舌が荒々しく動く。
余計なことは考えるなと言われているようで、こちらを見ろと強請られているような。そんな動き。
そこにテクニックなんて皆無だ。絶妙とまではいかなくても、及第点ぐらいは取ってほしいものだが、慧のそれは点数をつけることすら難しい。常日頃から自分が受けているはずの愛撫を、どうしてできないのだろうと思う。
「リカちゃん……ん、はっ……んう」
たどたどしい舌遣いに紛れる名前。苦しげに歪んだ顔で呼ばれる名前。
時々当たる歯が鈍い痛みを与えてくるが、何も言わずに頭を撫でてやる。そうすると、幾分か穏やかな表情に変わった慧が頬を染める。
嬉しそうで、それでいて幸せそうな顔。本当は心の優しい慧の、穏やかなこの顔に俺はとても弱い。
「慧君、上手。もっと奥まで」
「んっ……んん、ふ……あ」
「そう。もっと絡めて……ん……いい、よ。そう」
教えた通りに包み込む舌の柔らかさと熱に、次第に意識が奪われていく。
けれど、その奥でまだ燻っている何かがあるのは隠しようがない。
どうして他人の為に心を痛めるのかがわからない。
数年もすれば忘れるような、そんなやつのことで悩む意味がわからない。
俺をここまで焦らせるのは、昼間に蜂屋とかわした会話だった。
こちらがどれだけ悔いていても、それは相手には伝わらない。それなら目の前にいる者だけを想えばいいものを、もう会うことのないやつのことまで考える。
自分を悪くないと考えることを否定する。
それが癇に障ったのかもしれない。他人を容赦なく蹴落とす俺が間違っていると、そう言われた気になったのかもしれない。
自分では上手く隠せたはずの些細な変化に、慧は気づいた。本人はわかっていないだろうけれど、無意識に甘える仕草を見せたことがその証拠だ。
離れないようにと縋った手は、離さない為へと変わる。
俺がどこかへ行きそうだと思う慧の考えは、置いて行かれると焦る俺の根底部分にリンクする。
縛りつけたい慧の想いは、縛られたい俺の本音に、ぴたりと合わさる。
いつも、いつだって、助けてくれるのは慧君の方だと伝える為に伸ばした手。柔らかな髪を梳き、火照る耳を撫で、潤む瞳を余計なものから隠す為の手。
その手で触れるたびに様々な表情を見せる恋人が愛おしくて、たどたどしい愛撫に興奮する。
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