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そいつが現れたのは、席についてしばらくしてからだった。女の子だらけの店内で、スーツ姿の男3人を見て、目が見開く。
「なんで?え、なんでなん?!」
挨拶もせず、客に敬語も使えないなんてプロ失格なのではないだろうか。
礼儀に煩い豊が気分を害していないか盗み見れば、俺の心配をよそに桃に何かを説教していた。それに僅かな安堵の息を吐き、立ち尽くしている赤毛を見上げる。
「まず初めに挨拶と礼は?これ、結構高い酒なんだろ?」
隣に置かれたアイスバスケット。氷に埋まっているそのボトルは、店でも1番高価なもので。これの値段は知らないけれど、置いて行ったのが店長ということは俺たちは『良いカモ』もしくは『不審者』で間違いない。
「……ご指名ありがとうございます。サチ……です」
「知ってる」
「せやろな!じゃなくて、そうですよね」
「とりあえず座れば?今日の主役はコレだから」
コレ、と俺が指さしたのは、もちろん桃だ。テーブルに肘をつき、合わせた手の上に顎を置いていた桃が蜂屋幸を見つめる。
そしてその目が、弧を描いた。
「見た目は合格ね!ちょーっと派手だけど、こういう現実を忘れさせてくれる場ならアリよ」
「……は?オカマ?」
「今のは減点。あたしはオカマじゃなく、オネェなの」
注意しつつも自分の隣を空けた桃に、蜂屋は素直に腰を下ろした。少し離れた所から俺たちのテーブルを見る不躾な視線を感じるが、それを無視して煙草を手に取る。
それなのに赤毛は動こうとしない。
「おい赤毛。お前は煙草に火も点けないつもりなのか?俺、反抗的な子はあまり好みじゃないんだけど」
「ウサマルと付き合ってるくせによく言う……それにあんた、もう自分で点けようとしてるやん」
「慧君は別格。お前がグズグズしてるからだろ」
「そうですか。それは良かったですね」
自分も飲んでいいかと桃に伺いを立て、了承を得てからグラスを手に取る。琥珀色のシャンパンを注いだグラスを桃、豊の順に合わせ、俺の元まで来て止まった。
「あっくんは飲まんの?」
「まだその呼び方してるのかよ。俺は禁酒命令出てるから飲まない」
手元のコップに入っているウーロン茶を揺らし、答えれば命令を出した相手が誰なのか気づいた蜂屋が鼻で笑う。
「お前、それでもホストか。客をイイ気持ちにさせるのが仕事だろうが」
「あっくんがイイ気持ちって言ったらエッチやな。それより、お連れさんの紹介してくれへん?」
自分で聞き出せと言いたい。それがお前の仕事だろうと説教の1つでも言ってやりたいが、俺は今日、ここに客として来ているようで客ではない。
同じように金は払っても、純粋に楽しみに来ている周りの女の子たちとは違う。
吸っていた煙草の紫煙を吐き出し、視線で示した先は居心地悪そうにグラスを傾ける豊。
「そっちの大男は豊。見ての通り堅物で真面目人間だから、口の利き方には気をつけろよ。容赦なく締めあげられるから」
「堅物?胸元こんだけ開けてる人が?」
蜂屋の視線が自分の首から降りていくのを感じたのだろう。豊が手でそれを隠し、そっぽを向く。
「これは衣装みたいなものだ。あまり見ないでくれ」
たどたどしい言葉遣いに赤く染まった頬。薄暗い店内でもわかる様子に、蜂屋は頷いて次いで桃を見た。
「で、こっちのオカ……オネェ、さんは?」
どうやら蜂屋は慧君と違い学習能力が高いらしい。オネェさんと呼ばれた桃が、嬉しそうに笑って答える。
「あたしね、桃っていうの。豊とあたしはリカの友達で、さっちゃんのことは歩ちゃんから聞いてるのよ。会ってみたいなって思ってたの」
桃の台詞に蜂屋が瞠目し、唇を震わせた。信じられないとばかりに身体をのけ反らせて驚き……。
それはもう、大きな声で叫んだのである。
「桃って歩の?!歩までホモなんか?!なんでや、なんでやねん!!!!」
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