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蜂屋の見つめる先には、1人の派手な男が座っている。もてなす側だと言うのに足を組んで偉そうで、その様は好感など一切持てない。
隣に座っている女の子ではなく、自分が主役だと言わんばかりの顔。大げさな仕草に作られた笑い。その全てが『残念』だと思えた。
「あの人、俺より5歳上なんやけどめっちゃ横暴やねん。他のホストの客は奪うわ、自分以外を貶して上に上がろうとする姿勢が気に入らん」
「へえ。でも、奪い合うのがお前らの仕事でもあるだろ。奪った方だけじゃなく、奪われた方にも非はあるんだから」
「せやけど……確かに言う通りなんやけど」
そう言って蜂屋が口を噤むのは、自分が過去に奪う側だったからだろう。そのわだかまりを胸に残している蜂屋にとって、それは許しがたい……のだろうか。
黙って蜂屋を見つつ考え、きっとそれはないと憶測する。ウサギならまだしも、この蜂屋が割り切って考えられないはずはない。
ではなぜ。どうして蜂屋は、あの男と揉めているのだろう。その答えが見つからない。
ゆっくりと男から視線を外した蜂屋が見たのは、店の隅に立っている黒髪の男。派手な格好をしたホストと違い、シックな黒スーツを着て背筋正しく立つ男。
けれどその顔は、憂鬱そうに沈んでいる。
「あそこの黒服……店で働いてるスタッフのことを黒服て言うんやけどな、あいつ元ホストやねん。俺と同期で入ったから歴は長くないんやけど、めっちゃ頑張るやつで成績もそこそこ良かった」
「その言い方だと、お前はもっと良いんだろうな」
「まあ、うん。それは今はどうでもええやろ。とにかく、あいつを含めた数人は、あの先輩に潰されてもた。わざと難しい客にヘルプ付けられたり、無理に飲まされたり。それだけやなくて、あることないこと言われて精神的にボロボロで辞めてった」
壁に沿って立つ黒い彼は、蜂屋の言う通り疲れた様子で。時折呼ばれては席に向かうけれど、その表情は硬い。特に『先輩』とやらの近くを通る時は、あからさまに委縮していた。
「残ったのはあいつだけや。未収の分を店に返すまで、あいつは辞められへん」
苦々しげに言った蜂屋に反応したのは、桃だ。
「あら、そんなの払わなきゃ駄目な法律はないわよ。確かにこういう世界には独自のルールがあるだろうけど、そんなものいくらでも潰してあげる」
「潰してあげる?歩の彼氏さんは、こっちの世界に詳しいん?」
「桃ちゃんって呼んでちょうだい。詳しくはないけど仕事柄、こっちの話も聞いたりする程度ね」
胸ポケットから名刺を出した桃に、受け取った蜂屋が目を見開く。顔いっぱいに「オカマで弁護士」と書いて、驚愕した表情を浮かべる。
「弁護士さん連れて来るなんて、あっくん用意周到すぎやろ」
褒め言葉を言いながらも目は呆れている蜂屋に緩く微笑み、頷けば予想外に赤毛は頭を振った。
「でもあかんねん。ちゃんと支払うって、店から金を借りたって借用書があんねん。だからそれを返すまでは、あいつは辞められへん。でも、もうホストとして働ける気力はないから、ああやってコツコツ返すしかない」
「そうなの……それはプロが入っても難しいわね」
「別にあいつのヘマでしてもたことなら、俺も自業自得やと思う。けど仕向けたんはあの先輩。あの先輩が女の子たちに入れ知恵して、自分の客まで使って潰した結果がこれや」
歯をぎりっと鳴らし食いしばった後、蜂屋が息を吐く。深いそれが出きって、自嘲の笑みを零す。
「別にな、あいつは仲いいわけでもないねん。ただ……名前が一緒やねん。名字は俺が小学校の時に転校させた子と、下の名前は俺が高校生の時に彼女盗った子と同じやねん。そんなん偶然やってわかってても、何も感じへんほど俺は図太くない」
自分の失敗と他人の失敗を重ねて見て、苦しそうに顔を顰める。詳しくは知らなくても何かを察した桃が黙り、豊が心配する視線を向ける中。
それでも心が動かない俺は、多分誰よりも汚い。
蜂屋が非難した『先輩』よりも俺の方が断然に汚い。
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