アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1
-
目を開けるそこは……。
その続きが出てこない朝。カーテンから漏れ入る眩しすぎる日差しは、少なくとも朝ではないだろう。
習慣化してしまった遅い目覚めに、深くため息を1つ落としてベッドを出る。誰に遠慮することもなく抜け出した跡は乱れ、皺の寄ったシーツを直す気にもなれなかった。
ひんやりと、けれど寝起きの身体に支障がない程度に冷やされた部屋。
窓から見える外との差に、整えられた環境に感謝した。けれど、それを施してくれた相手は、ここにいない。
大学を卒業してから数ヶ月が経った。もう学生と呼ばれる状況ではなくなって、俺には俺なりの新しい生活が始まって。
着々と出世を続けるリカちゃんも、昔よりもさらに忙しくなって、会話が減って、自然と一緒に過ごす時間が減って。
面と向かって「おやすみ」を言った回数も、少しだけ隙のある「おはよう」を聞いた回数も、昔と比べると少なくなった。
それが自然なのだと、今では受け止めているつもりだけれど。心と身体は完全には一致しないものだって、無性に叫びたくなる時もあるのが本音だ。
俺が大人になったから……かもしれない。2人の生活のベースが変わったからかもしれないし、リカちゃんが自分のリズムを大切にしているからかもしれない。
その全てのようで、どれも違うようで、正解は誰にもわからない。
別に会いたいと思う必要はない。だって、家に帰れば嫌でも顔を合わすのだから。
声を聞きたいと思う必要もない。名前を呼べば「なあに?」と答えてくれるのだから。
それでも俺は見えないものを求め、見えないことに不安になり、見えないからこそ見て見ぬふりを続けている。そうすることで、最悪の事態を免れようとしている。
大人になって成長したんじゃない。女々しくなり、弱くなり、怖がりになっただけだ。
気を抜いてしまえば溢れてしまうような、この言いようのない不安。それを物に例えるとするなら、コップに注いだ水だ。
もう要らないと思っていても、元に戻すことの出来ない水。今、俺の目の前に置いてあるコップの中身と同じだ。
それを無理に飲み込んだ時には、時計の針はまた進んでいた。空気を読んで止まってくれればいいのに、あいつらは絶対にそれをしない。
楽しくても悲しくても、淋しくても時間は過ぎていく。早く大人になりたいと思ったことを後悔した回数は、きっと両手の指じゃ足りないぐらいだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1094 / 1234