アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5.大きなお世話
-
いくら大人の仲間入りをしたとしても、俺は相変わらず気の利いたことは言えない。何か相談されても、返してやることはできない。
だからこそ自分なりに、できるだけ静かに過ごしているつもりだった。
しかしながら魚住はそんな俺に対して、冷やかしとお節介なアドバイスを日々してきやがる。例えば、こんな風に。
「兎丸はさ、ただでさえキツめの顔してるんだから、もっと笑わないと。顔の造りは良いんだし。兎丸がちょっと笑えば、みんな喜んで話しかけてくれるって」
「別に話しかけてほしいわけじゃないし。ここは勉強に来る所なんだから、それ以外の会話は不必要だろ。どうせ話しかけられるなら授業のことがいい」
「じゃあ聞くけどさぁ。明確な答えがない国語の授業で、どんな質問しろって?国語なんて『答えは文章の中にある』がお決まりのくせに」
「ああ、魚住はガチの理系だったっけ」
「俺はね、国語みたいな曖昧な科目さえなければ確実に教員試験受かってたんだよ。なんだよ、その時の主人公の気持ちなんて主人公にしかわかんないだろ……そんなのがわかるなんて、神様でも気取ってるつもりかよ」
常日頃から、人の気持ちなんて全くわからないと言う魚住らしい文句。その相変わらずの文系嫌いに呆れていると、魚住のスマホが震えた。
「……またか。ほーんと、こいつ鬱陶しい」
液晶の画面を一瞥した魚住は、心の底から鬱陶しそうにスマホを机の上へ投げ捨てた。
「またって、例の彼女?」
「違う違う!元、彼女だから。仕事が大変な時に別れるなんて嫌だ。支えてくれる人がいなきゃ私は頑張れない……って、俺に言われても知るかよ。自分で選んだことなんだから、1人でなんとかしろよな」
「今の言い方きっつい……お前さ、それ本人に直接言ったりしてないよな?」
「もちろん言ったけど。なんで別れた相手に優しくしなきゃ駄目なわけ?そこに俺のメリットはないし、変に優しくしてストーカーにでもなられたら終わるでしょうが」
清々しいほどの笑顔で答えた後を追うようにして、また魚住のスマホが震える。早く出ろと言わんばかりのそれに、さすがの魚住も眉を寄せた。
「年上だし、サバサバしてると思ったから付き合ったのに……こんな面倒臭い女だって知ってたら、即逃げてたっての」
愚痴を零し低く唸った魚住が椅子から立ち上がり、俺の隣まで歩いてくる。
真横に立つと軽く見上げるぐらいの身長。適度に着崩されたスーツ、決まりすぎてないけれど整えてある髪型。
顔はそこまでイケメンってわけでもない。そう思うのは、俺が美形を見慣れすぎいているからかもしれないけれど、近寄り難いほどではないのは確かだ。
でも何故か彼女が途切れることはない。魚住は誰とも長続きしないものの、いつも誰かと付き合っている。
リカちゃんとはまた違う感じでモテる男。
なら
その中身は引くほどのクズで吐き出す毒舌で、けれど外面はすこぶる良い。
俺は、いつか魚住が誰かに刺されるんじゃないかと、少しだけ心配だったりする。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1098 / 1234