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16.自信過剰は正義
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俺はリカちゃんのスイッチを押すのは得意でも、その謎すぎる行動を予測するのは苦手らしい。
別にそんなの苦手なままで構わないのだけれど、時々は奇跡を発揮できたらいいなとも思う。
そうじゃないと、いつまでも振り回されてしまう。
身体の表面を滑る指に。柔く食んでは逃げ回る唇に。
何も知らない、とばかりに観察してくる瞳に惑わされ、注がれる視線に緊張させられる。
リカちゃんに触られた回数は数え切れないぐらいだし、こうして人には言えないコトを、もう何度したかはわからない。
知らないところなんてないはずだし、誰よりも触れ合ったはずだ。それなのに、いつもドキドキさせられる。
見たことのない顔を、いつも見せつけられる。
「はっ……ふ、ぅ……んんっ」
右手でソファの縁を掴み、空いた左手で口を塞いで声を殺す。咄嗟に噛んだ薬指に何もないのは、風呂に入る時に指輪を外したからだ。
仕事中と風呂以外では必ず存在する指輪。
採用試験に落ちたフリーターのくせに、そんなのは生意気だと思われるのが嫌で、塾に着けばそっと外す指輪。
正直に言って、たかが指輪1つでも付け外しするのは面倒だ。なのに俺がそれを続けている理由は、リカちゃんに義理立てているからじゃない。
──自分の為、なんだ。
だって、毎日が不安だから。目に見える証がないと、今の場所へも帰ってこれない気がするから。
あの指輪がなくなったら最後、俺は全てを失うんじゃないかと不安に駆られる。落ち着けなくなる。
だけど今はそれを教えてくれる指輪がなくて、もしかしたら、これは俺の夢か願望なのかもしれないと思った。
「リカちゃん」
もし返事がなければ、妄想。
どうしたんだって聞かれたら、夢。
俺の名前を呼んでくれたら、思い出を振り返ってるだけ。
最近ご無沙汰だったから、こうして偽物のリカちゃんに縋ってしまうのは、生理現象で仕方のないことなんだ。
「リカ……っ、ちゃん」
そう思って再度呼んだ名前。
淋しい薬指を噛んだ唇の隙間。そこから漏れた声に、俺の背筋を舐め上げていた男が答える。
伏し目がちだった瞳が真っ直ぐに俺を映し、目尻が下がる。柔らかい……笑顔。
「慧君」
名前を呼んでくれたリカちゃんは、今までと変わらない優しくて穏やかで、俺にだけ特別に聞かせてくれる声で言葉を紡ぐ。
「心配しなくても大丈夫。俺は慧君が傍にいないと、何もできない男だからね」
「それ、堂々と言うことじゃない……っん……と思う、んだけど」
「でも本当のことだし。慧君の人生の主役は慧君だけど、俺の人生の主役も慧君」
勝手に俺をお前の人生に出演させるなって言うはずの口が、頭とは別の動きをする。
自分の意地とは反して、俺は甘ったるい息を吐いた。嬉しいという気持ちを、微塵も隠そうともせずに。
「触るなら…っ、ちゃんと触れよ。くすぐったい」
「触ってるよ。こうして慧君に触れて確認してる。この肌の感じと薄い肉付きは、2キロ痩せたね」
「なんで軽く触っただけでわかんの?え、怖すぎ……」
「わからないはずがないでしょ。俺は誰よりも兎丸慧マニアで、兎丸慧に関しての情報には目敏いよ」
特にこの辺りが痩せたね、と教えてくれる指先。リカちゃんの細いそれが触れたのは、腰と尻の際どいラインだった。
もちろん、俺の身体はピクリと跳ねた。
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