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20.前向き上向き思考
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荒れた俺の唇を癒すかのように、それとも噛んだことを咎めるかのように、リカちゃんの指が表面をそっとなぞる。その後に背後から軽いリップ音が聞こえたから、何をしたのかは見なくてもわかった。
人の唇を撫でた指を舐めるなんてド変態だ。前々から分かっていたけれど、それを再確認させられた気分だ。
「リカちゃんのバカ、変態っ……痴漢男!」
下着を隠したりマッサージだと言って妖しく触ってきたり、触れた指を舐めたり。その一連の行動をどう名づけるべきか考え、出た『痴漢』の言葉。
電車で移動するようになって身近に感じ始めた単語を口にすると、リカちゃんの纏う空気が重くなった。
ああ、もう……これは嫌な予感がする。
「痴漢男って何?まさか慧君、俺の知らない間に電車で痴漢されてないよな?」
ほら。予感はすぐさま的中だ。
「そんなの、されるわけないだろ……俺は男だし。男の身体なんか触って喜ぶのは、お前ぐらいだ」
「だからさ、男だとか女だとかは理由にならないんだって。もし俺が痴漢だったら、慧君が男だろうが、場所が電車の中だろうが迷わず触るからね」
俺は痴漢されたこともないし、そもそも男だし、されるわけがないのに。性別も場所も気にしないお前がおかしいのに。
それなのに、リカちゃんはきっと眉を顰めているんだろう。眉間に皺を寄せて機嫌を悪くしているはず。
「ねえ慧君。本当に痴漢されてない?心から誓える?変な爺さんに触られたり、ぎらついた目をした女に抱きつかれたり、冴えない顔した学生に告白されたり。そんなこと絶対にないって、俺の目を見て言える?」
「リカちゃん……お前はバカなのか?男を狙う男なんて滅多にいないし、女から抱きついてくる状況なんてあり得ないし、そもそも告白は痴漢じゃないし。そんな無駄な心配してたら、禿げるぞ」
「うちの家系は白髪が多いから大丈夫だと思うけどね。慧君が不貞を働かない限り、俺は平穏な生活を心穏やかに過ごせるよ」
「……俺はちっとも穏やかじゃないんだけどな。本当にお前は顔は良いのに頭の中が問題だらけだ、もったいない」
不貞って、リカちゃんは何を言ってるのだろうか。自分の方が何倍も、何十倍もモテるくせに勝手だ。
少しでも外を歩けば、すぐに男女問わず視線を集め、告白された回数なんて数え切れないくせに。理不尽だ。
リカちゃんなら、女の人から抱きついてくるなんて『よくあること』だろうけれど。そしてこいつは、そんな状況でも焦ることなく飄々としてやがるに違いないけれど。
なのに俺にはしつこく詰問してきて、絶対に許さないと怒る。
「リカちゃんって見た目と中身に差がありすぎ」
「今さらそれ?」
「今さらでも何でも。俺はそのギャップに心の底から感心する」
「やっばぁ……慧君に褒められるのって、なんだか久しぶりだね。ありがとう」
断じて褒めていないと言っても、どうせ無駄なことはわかっている。だから俺はそっと口を閉じ、心の中で盛大なため息を吐いた。
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