アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
25.無関係な関係
-
嬉しそうに笑った彼女は、魚住を見つけて嬉しいのか、小さく跳ねる。まるで、背中に羽でも生えているかのように軽いステップで俺たちの元まで来た。
また言うけど、もちろんその視線は俺じゃなく魚住に向けられている。隣にいる俺が見えていないんじゃないかと思うほどだ。
「魚ちゃん!ずーっと待ってた」
「──うおちゃん?!」
俺たちの真ん前に立った女子高生が呼んだ呼び名に、反応したのは俺だけだった。俺だけが目を見開き、彼女と魚住を何度も視線で往復する。
心の中の台詞を口に出来るものならば「嘘だろ?!」と「マジか?!」と「本気で?!」だ。
それでも国語の教員免許持ってるのかと言われたとしても、それ全部同じ意味じゃねぇかって笑われたとしても、俺からはこれ以上の言葉は出てこない。
それなのに、動揺してパニックを起こす俺を放置して生徒はニコニコ。魚住は深いため息を吐くだけ。
この2人はここが塾の玄関口で、しかも周りにはこれでもかと向けられる人目があることなんて、ちっとも気にしないんだろうかと思ってしまうぐらいに普通だった。
「ちょっと!魚ちゃん無視?!」
やたらと親しみを込めて。そして、やたらと上目遣いで魚住を呼ぶ女子生徒Aと。
「あー、はいはい。無視じゃなくてスルーしてるだけな」
さも気だるげに視線すら向けずに流そうとする、魚ちゃん……こと、魚住と。
「あ、えっと……あの、さ。とにかく早く中に入ら……ないか?」
当然の提案をして、なんとか2人を促す俺。
今ここに常識人は俺しかいない。人目を気にするのも、状況を考えられるのも俺しかいない。
自分の力だけを頼りに、なんとかこの場を乗り切ろうと魚住を急かす。すると、いつもは必ず刃向かってくる魚住が妙に素直に従ってくれて、俺より少しだけ大きな身体が真っ直ぐに塾へと向かう。
先頭を押されて歩く魚住。
その背中をぐいぐいと押す俺。
俺たち……もとい、魚住を追いかけてくる女子生徒A。
「魚ちゃん、話があるんだけど!」
彼女が声を上げる度に俺の肩は跳ね、魚住の身体から力が抜ける。
「なあ魚住……もしかして、もしかしなくてもだけど。後ろの子ってさっきお前が言ってた……」
周囲を気にし、できるだけ声を落として問いかけると、前を向いたままの魚住が頷いた。
「兎丸。その予想は大当たりー。今日の兎丸が珍しく鋭いのは男の勘ってやつかな?そんな言葉、今まで聞いたことないけどそれ以外の表現が見つからないや」
あはは、と楽しげに笑う魚住にイラッとしたけれど、そんな場合じゃない。
俺は今、他人の修羅場に巻き込まれようとしている。それも講師と生徒という、何となく身に覚えがあるような無いような……経験したことがあるような、そんな修羅場に。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1118 / 1234