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55.慧くんと歩きゅんと、たっくん
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「誰かさんが人の悪口言いまくってる間、すげぇ勉強してきた」
チラリと向けられた歩の視線は明らかに俺に向けてのもので、ということは誰かさんとは確認しなくても俺のこと。けれど、その通りだから否定もできず、うんうんと唸る俺を見て歩が鼻で笑う。
「お前、久しぶりに会ったオトモダチのことボロクソに言うなんて性格悪くなった?あー、違うわ。前から慧は性格が悪かったよな」
「そんなこと歩に言われたくない。お前よりはマシだから」
「へぇ。帰ってきた次の日にわざわざ大学に寄って、疲れてるのにわざわざ留学の話して、面倒くさいと思いながらもわざわざ知らない学生相手にアドバイスさせられた俺のどこが性格悪いって?優しさの塊だろ、逆だよ逆」
「そんなの俺関係ないし。ってか嫌なら初めから断ればいいだけだろ」
「慧のバカはいつまでも治らないのか?嫌でも今後の為に役立つなら、仕方なく引き受けるに決まってんだろ。人脈は多い方がいい」
俺を奥へと押し退けた歩が隣に座ってくる。こんなに俺に文句を言うなら拓海の方に行けばいいのに、どうして俺の横に来るんだろう。
きっと、これも嫌がらせに違いない。
「あー……ってか、ここ禁煙?ずっと吸えなくてイライラしてんだけど」
「いや喫煙席。歩のことだから、どうせ煙草やめてないと思って喫煙席にしといた」
「さすが抜け目のない拓海くん」
淡々と会話を続ける2人に、こいつらだって久しぶりに会うくせになぜだろうと考える。なぜ、こんなにも普通でいられるんだろう。
ポケットから煙草を取り出した歩も、慣れたように灰皿を取ってやる拓海も、あの頃と変わらない。けれど俺たちは気づけば大人になっていて、もう歩の煙草を咎められることも、拓海が時間を忘れてバカ騒ぎすることもない。
続くのは、今の2人の会話だ。
「歩、順調にいってる?」
何についてかを言わなかった拓海に、歩が頷く。
「ああ、まあな。思ったよりは早く済みそう」
「そっかあ……俺、歩の意義あり!を聞くの楽しみ」
「拓海。先に言っておくけど、そんなに頻繁には言わないから。実際の裁判なんて、決められた流れで決められた話をするんだからな」
「ええっ、そうなの?じゃあ歩って何すんの?カツ丼食べさせて終わり?」
「それは警察だろ……しかも今時カツ丼なんて出さねぇよ。拓海までバカ言ってどうする」
バカにしながらも笑った歩につられ、拓海も笑う。そんな2人の笑い顔でさえ、俺には別人のように思えた。
明日の予定、これから先のこと。苦手な人付き合いに、仕方ないと受け入れること。
同じような会話をしても、あの頃とは違う。
同じように3人集まっても、あの頃とは全く違う。
拓海は美容師になって、まだアシスタントだけど頑張っていて。歩は嫌いな勉強をわざわざ海外に行ってまで続けて、何年か後には検事になるらしい。
じゃあ俺は?
俺は、どうだろう。変わらないことに焦るくせに、変わりたくないと思う。変わっていく周りを羨ましがるのに、変わっていく状況に逆らおうとする。
まるで進路に悩んでいた時と同じ。同じことを繰り返す俺には、新しいことに向かっていく友達の姿があまりに眩しい。
だから目を閉じてみのだけれど。
「おいバカ慧。お前こんな場所で寝るなんて、兄貴とヤりすぎなんじゃねぇの?そろそろサルから人間になれよ」
ちっとも変わらない歩の無神経なところに、苛立ちを通り越して懐かしさを感じてしまう。
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