アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
74.経験者は語る
-
夜空を見上げての言葉は、まるで自分に向けての宣言みたいだ。どうしよう、どうしようと悩む俺と違って、彼女は自分の進みたい先を真っ直ぐ見ている。
アドバイスが欲しいわけじゃない。話を聞いてほしいだけ。自分のしなきゃいけないことは自分で決める。
そんな彼女を、女子高生だからと軽く見ていた自分が恥ずかしい。
「先生と生徒ってのがダメなら私が塾変えればいいだけだ。でも年齢はどうにもできない。だから私は、強引に追いかけるしかできない。そうしなきゃ魚ちゃんは話を聞いてくれないし、私を見てもくれない」
立ち止まろうとしない足に、彼女の強い意志を感じた。それは俺がまだ高校生の時、リカちゃんを想っていた時と似ているような気がした。
『好き』の気持ちだけで突っ走れていたあの頃の自分と重なる。だからだろうか。考えるよりも先に身体が動いたのは。
「俺の知り合いの話なんだけど。そいつが高校生の時、当時の担任を好きになったことがあってさ」
これを言ってもどうにかならないし、だから何だって話だけど。でも俺には他にかける言葉がない。
「そいつは拒絶もされたし、はっきりと直接断られた時もある。でも今は、多分……多分だけど幸せなんだと思う。確かに嫌なことも多くて我慢もいっぱいして、喧嘩もしたし逃げたくもなったけど。でも、うん……幸せなはず」
俺の言葉に女子高生は首を傾げ、瞬きをした。その行動が意味するのは『急に何を言ってるの?』だと思う。
俺だって脈略がないのはわかってる。けれど強引に続けることにした。
「リカちゃ──じゃなくて先生の方が言ってたんだけど、人生って選択の連続なんだって。いつも何かを選んで、その先に進んで、そうしたらまた選択肢が現れて」
「うん」
「だから……あんまり上手くは言えないけど。お前が今は魚住がいいって思うなら、俺はそれでいいと思う。明日は違う誰かと出会って、そいつか魚住か選んで……また魚住だって思えたなら、それはそれでいいんだと思う」
「うん?」
「つまり、俺が言いたいのは……」
一応は先生として、頑張れは言っちゃいけない。
でも先生を好きになった経験者として諦めろとも言えない。
迷った俺が出した答えは、きっと教育者としては最低点の答えだった。
「別に、魚住を好きなままでいいんじゃないかな。それが報われるかは俺には関係ないし。ってか絶対に魚住より良いやつが現れるって思ってるから。あいつが常に1番でいられる可能性なんて米粒より小さいだろ」
頭の中に怒る魚住の様子が浮かぶけれど、これが俺の率直な意見だ。現実的に考えて、この先この子が知り合う中に魚住より良いやつは絶対にいる。
その時誰を選ぶかは彼女次第。選ばれた相手がどうするかも、そいつ次第。
俺は今まで、ずっとリカちゃんを選んできた。そしてリカちゃんは、いつだって自分を選ぶよう教えてくれた。だから今も一緒に過ごせているんだと思う。
俺とリカちゃんの関係は、普通とは言えない。俺たちと同じように、この子と魚住も……はきっと有り得ない。
だからきっと、彼女の恋は上手くいかないだろう。彼女がどれほど魚住に運命を感じていたとしても、魚住はそれを切って捨てる。
これが現実。初恋が実った俺が言うべきではない現実とこの子は戦っている。
「本当にお前と魚住が運命だったら、上手くいくよ」
運命なんてどこにもない。
夢を語っても仕方がないし、実際に起こっていることが全てだ。
俺がリカちゃんを疑っていることも、蛇光さんがリカちゃんを狙っていることも、2人が一緒にいることも。その選択したのが俺だということも。
……でもリカちゃんは、今回は教えてくれなかった。今までみたいに自分を選ぶよう誘導してくれなかった。
俺も現実と戦わなきゃいけない。頭ではわかっているのに、まだ心の準備ができていないんだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1167 / 1234