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77. Original Color
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与えられた回答は1つだけ。それ以外を答えることは許されない。それなら俺は、何も答えないことにした。この人の思い通りには絶対になりたくないからだ。
すると蛇光さんは興味をなくしたかのように俺から視線を外した。俺よりも包帯を見て、用がある俺にではなく包帯に向かって話す。リカちゃんが巻いた包帯に向かって。
「ねぇ慧くん。慧くんってお付き合いしてる人がいるんだよね?」
「なんでそれを蛇光さんが知ってんの?」
「前に慧くんの話をした時、獅子原さんが言ってたの。長く続いてる恋人がいるから、あまり気軽に近づきすぎないであげてって。あたし、慧くんのこと可愛いなって思ってたんだよね」
思ってたということは、今は思っていないってことで。
リカちゃんが蛇光さんに言ったことは、本当のことで。
この人に言われる可愛いと、リカちゃんに言われる可愛いには大きな差があって。
どれから考えればいいんだろう。どれを考えなくてもいいんだろう。と言うか、蛇光さんは何を言いたいのだろう。
こんな時間にこんな場所で俺を待ってまで何を言いたいのか。それは、すぐに判明した。
「慧くん。そんなに大切な彼女なら、いっそのこと一緒に住んじゃえばいいんじゃないかな?もう子供じゃないんだし、獅子原さんにずっとお世話になるわけにいかないでしょ」
リカちゃんが巻いた包帯。蛇光さんの口紅で汚れた包帯。それを撫でながら蛇光さんが続ける。
「だって、あたしが予定してた通りの人が、こんなに近くにいる。あたしの思い通りの人が、こうしてあたしを助けてくれた。もう運命でしょ」
「予定?」
一体何を言ってるんだろうと俺が首を傾げても、この人は俺に答えをくれない。自分の話しかしない。
「そう言えば獅子原さんの下の名前って理佳っていうんだね。凛としてて、でも柔らかさもあって。うん、名前も好きだなぁ」
口紅のとれかけた唇は、蛇光さんの本音を隠したりしない。素のままの女が素のままの言葉を口にする。
「慧くんが味方してくれるから、こんなに早くチャンスが来たの。だから慧くんにお礼を言うために待ってた」
「何言って……」
「だってこれは運命だもん。あたしと獅子原さんが出会ったのも、こうなったのも。そのきっかけを作ってくれたのが慧くんだから、やっぱり慧くんに感謝しなきゃね」
ゆらゆら揺れる手の意味は、俺にだってわかる。
鷹野凛が……俺の生徒が蛇光さんに怪我をさせたことは紛れもなく現実で。俺が止めるべきだったのも、同じように現実。
でも、その責任を俺じゃなくリカちゃんにとらせようとするのは、無茶苦茶だ。誰がどう聞いたって、無茶苦茶以外の何でもないのだけれど…………。
けど。
多分、リカちゃんは断らない。リカちゃんは断れない。
俺のことを考えて、俺の不利になるようなことは無視できない。100%じゃなかったとしても、蛇光さんの要求をのんでしまう。
この人は容赦なく人の弱みを突いてくる。
鷹野の使う運命って言葉は、ちっとも現実的ではないけれど優しかった。俺には眩しすぎた。
蛇光さんの使う運命は汚くて卑怯だけれど、有無を言わせない力がある。俺にその力は大きすぎる。
中途半端な俺はどっちにもなれなくて、中途半端に文句を言うしかできない。
「そんなの……絶対に嫌だ。蛇光さんの味方になるなんて、絶対に嫌だ!」
全力攻撃から俺の反撃が始まる。
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