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100.きっと楽しい日になる
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夕方でも夜でもない微妙な時間に寝たくせに、俺が起きたのは翌朝の8時だった。いつも起きる時間よりは遥かに早いけれど、それでも12時間以上も眠っていた自分に驚く。
しかも気づけば服を着てるし、肌もベタベタしてないし、なんならシーツだって昨日と違う。ということは、これは全てリカちゃんの仕業で、俺は寝落ちて何もしてないわけで……。
「ダメだろ……おい、さすがにこれはダメ過ぎるだろ……俺」
昨日の自分に呆れてしまう。音を立てないように上半身を起こし、頭を抱えて唸る。けれどそれも極力小さな声で、だ。
なぜなら俺の隣にはまだリカちゃんがいるから。普段なら起きてるはずのリカちゃんがまだ寝ているってことは、相当疲れているのか、昨日は眠るのが遅かったかだ。
俺のいる方を向くようにして、静かに眠っているリカちゃん。普段から大きな声で喋るタイプではないけれど、寝ている時はもっと静かだ。静かすぎて怖い。
「こいつ……息してるよな?」
リカちゃんの口元に耳を近づけると、微かに唇が震える音がする。当たり前だけれど生きていたことに安心し、そしてまだ眠っていることにも安心した俺は、布団の中に舞い戻る。
そして、今度はリカちゃんの腕の中に潜り込み、真正面から見つめてみる。
いつもは照れてできない至近距離での凝視。それが今はできるのは、何度も言うけれどリカちゃんが寝ているからだ。
「リカちゃん」
呼んでも反応しないのを良しとして、一応周りを確認する。この家に俺たち以外はいないことがわかっていながらも、念の為の、念の為の……念の為に確認する。
そして。
「あきよし」
すっごく久しぶりに呼んだ名前は、なんだかくすぐったい。呼び慣れていないのもあるけれど、カチッとした堅い名前は寝起きに呼ぶには合っていないからかもしれない。
「理佳の鼻、唇、耳……でもやっぱり1番好きなのは目かな……いや、全部か。でも全部はずるいよなぁ……それなら、やっぱり目?」
顔だけでもこんなに好きなところがあって、しかも1番が決められないなんて。どれだけ好きなんだよって自分自身にツッコミを入れつつ、じっと見つめる。
そうして俺が5分は見つめた頃。やっとリカちゃんの目が開いた。とは言っても瞼が上がっただけで、焦点は定まってないけれど。
「……ん…………け……い、くん?」
リカちゃんが他の名前を呼ばなくて良かった。別の誰かの隣で寝たと思っていなくて良かった。
そんなことを一瞬だけでも考えてしまったなんて、言えるわけがない。だから俺は代わりに、笑って言った。
「おはよ、リカちゃん」
「うん……おはよ。今は…………もう8時か」
珍しく隙だらけで、珍しくぼんやりしてるリカちゃん。まだ起きて1分経ったかどうかだから、仕方ないけれど。でも、なかなか見れない姿に何だか意地悪がしたくなる。
「リカちゃん、遅刻すんじゃねぇの?」
「えー……今日は休むからいいの」
いいの、なんて普段は言わない言葉遣い。それだけじゃなくて、まだ寝たいと枕に顔を埋めるのも、いつも起きるのが後の俺は普段は見ることができない。
「リカちゃんがまだ寝るなら、俺だけ出かけてくる」
「それは嫌だなぁ……あぁ……うん。もう起きる……からあと少し待って」
「とか言って全然起きようとしてないだろ。昨日あんまり食べてないから腹減った」
「んー…………はいはい、分かったって」
リカちゃんが大きく息を吐いて身体を起こす。顔にかかる髪を鬱陶しそうにかきあげたかと思ったら、俺を見て微笑んだ。
「おはよう慧君」
「それ言うの2回目」
「それじゃあ、今日も可愛いね慧君」
「可愛いって言われても嬉しくないから、やだ」
ふふ、と笑い声を漏らしたリカちゃんが俺へと手を伸ばしてくる。それを黙って受け入れれば、リカちゃんの指は俺の唇を撫でて頬へと移動した。顔にかかる髪を耳に掛けてくれる。
「慧君。朝ごはんは何が食べたい?」
リカちゃんって言いかけたのを、俺は寸前で我慢した。
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