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105.男のめいつ
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店内に客は俺たちだけ。それなのに誰も話しかけてこない異様な光景に戸惑う。早く出たいと思っているのは俺だけなのか、リカちゃんは相変わらずマイペースだ。
何色でも似合うんだからさっさと決めればいいのに、じっと棚を凝視している。
そして俺は、そんなリカちゃんを睨みつける。すると俺の鋭すぎる視線に、やっとリカちゃんが気づいた。
「慧君。そんなに熱い視線を向けられると、ここでキスしていいのかなって思っちゃうんだけど」
「黙って見てただけでそんなことをされたら、俺はお前のことをセクハラで訴える」
「それは困るからやめて。ごめん、おじさんが悩んでる姿なんて見ててもつまらなかったよな」
リカちゃんのどこにおじさん要素があるのか知らないけれど、謝るところはそこじゃなくて。そもそも、謝る必要もなくて。
軽く首を振って否定しても、リカちゃんは苦笑いを浮かべるだけ。
「別にリカちゃんのことをオジサンだとか、そこまでは言ってないんだけど……」
俺の無言の凝視を退屈してるんだと勘違いしたリカちゃんに、何て訂正すれば良いのかわからない。言葉を間違えば余計に勘違いさせるし、けれど人前で見惚れてたなんて言えるわけないし。
「とにかく、リカちゃんはオジサンではないと思う」
「そうかな。年齢的には、もう若いとは言えないでしょ」
「でも見た目はそうじゃない」
「昔からなぜか実年齢より下に見られるんだよなぁ……今はそれに助けられてるけど」
淡々と話しながらもリカちゃんは候補を2つに絞っていた。青のネクタイと薄いグレーのネクタイを手に持ち、見比べる。
「結局、自分で選ぶと似たような物になる」
「じゃあ、リカちゃんが決められないなら俺が決める。これな」
左手に持っていた青い方を掴む。それを俺のと合わせてレジに向かえば、追いかけて来ようとするリカちゃんを振り返って言った。
「自分で払うからいい。リカちゃんのこれは、俺が汚したやつの代わりってことにしろ」
あの日。リカちゃんに向かって吐いた時。
俺はシャツだけじゃなくてネクタイも汚したはずだ。だからこれは、その弁償も兼ねている。リカちゃんがなんて言おうと、今回ばかりは何がなんでも譲る気はない。
「反対は認めないからな。リカちゃんなら男のメイツってやつ、わかるだろ?」
「男のメイツ……?mates??日本語訳で相棒、仲間?男の仲間……?いや、確かにネクタイは相棒のようなものだけど」
「何をぼそぼそ言ってんだよ。男のメイツつったら、プライドとかそういう意味だろ」
「…………慧君、それを言うなら男の面子だと思うよ。男のめ・ん・つ」
言い間違った俺を笑うリカちゃんを睨みつけ、レジに着いて。カウンター越しに笑いを堪えている店員に、死ぬほど恥ずかしい思いをした。
顔はいいけど言動が残念すぎるリカちゃんと、堂々と大声で言い間違った俺と。あまりにも恥ずかしい思いに、もうこの店には来ないだろう。来れるわけがない。
去り際に聞こえた「ありがとうございました」の「た」を聞き終わる前に店から離れれば、やっぱりリカちゃんはどこにいても見られていて。歩いていく通路でも途中で寄った喫煙室も。
目立ちすぎるリカちゃんとの買い物は、いつもの数倍疲れる。
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