アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
107.女の子になりたいライオン
-
バカらしさしかない料理名に驚き、動揺することなく聞き取った店員の有能さに驚き、淀まずに言ったリカちゃんに驚く。どこからツッコミを入れていいのかわからなかった俺は、諦めて腰を下ろした。
かご状の椅子は上から吊るされたハンモックになっている。力尽きて座り込んだ俺を当然のように押したリカちゃんは、その隣に滑り込んできた。
2人の太ももがぴたりと合わさる。男が男にくっついている状況に、周りからの視線が痛い。
俯いても突き刺さるぐらい、とにかく容赦なく痛い。これは見られてるんじゃない。俺は、視線で殺されようとしている。
「リカちゃん……俺、明日からもう外を歩けない。きっと写真を撮られてSNSに上げられて、ホモだって拡散されるんだ……顔も名前も住所もバレて、そうしたら塾にも行けなくなるし、マンションの人達にもコソコソ言われるんだ」
「慧君、それはそれは逞しい想像力だね。でも、みんな自分たちのことに夢中で、誰も俺たちなんて見ていないと思うよ」
「嘘だ。顔を下げてても見られてるのがわかるもん。すっげぇ見られてるもん」
「まあ……もし仮にそうなったとしたら、俺が女装でもなんでもして慧君を守ってあげる。慧はあたしの彼氏よ!ゲイなんかじゃないわ!って大声で叫ぶよ」
「……どこにお前みたいなデカい女がいんだよ。しかも、微妙に桃ちゃんの真似入れてくんな」
「それな。顔は化粧をしたら女で通用できるとしても、身長は誤魔化しようがないからなぁ……。いっそのこと骨でも削るか」
削るとしたらどこを削るかブツブツ呟くリカちゃんの声が、隣から聞こえる。きっと冗談だってわかっているのに、そこまでしようとするリカちゃんに、俺の力は自然と抜けた。
「リカちゃんがバカすぎて相手する気が失せた」
「ほう。つまりは、俺の好きなようにして良いってことだね?」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ。どれだけプラス思考なんだよ、てめぇは」
「マイナスに考えても落ち込むだけだからね。俺は、何事も前向きにとらえて生きるタイプに生まれ変わったんだよ」
慧君のおかげでね。
そう付け加えたリカちゃんが、俺の頭に顔を埋める。またまた周りからの視線が痛いけれど、もうどうでもいい気がした。
だって、ここは恋人同士に向けての席であって、別に男と女限定とは書いてない。だから俺たちが悪いことをしているわけでもない。
マナー違反なのは、ジロジロ見てくるやつだ。
そう自分に言い聞かせる。すると忘れていた空腹が蘇ってきて、俺の腹がぐぅっと鳴った。
「リカちゃん、腹減った」
「もう少ししたら恋人たちのパスタがくるよ。ガラスの靴のパフェと、アップルタルトも」
「ってか、よくそんな名前のメニュー言えたな。俺なら恥ずかしくて無理」
「それが結構すんなり言えたんだよね。もしかしたら俺、前世は王室に仕えてたのかもしれない」
「リカちゃんなら仕えてるっていうよりも……」
仕えさせてる王族の方だと思う。しかも周りに綺麗なメイドを侍らせて、何人も綺麗な姫様を囲って。
王子様ってやつの服を着て、キラキラしてる椅子に足を組んで座り、チヤホヤされるリカちゃんを想像した俺は、目の前の男を思いきり睨んだ。
「……お前マジで腹立つ」
自分の妄想にイライラする俺に、リカちゃんが困ったように笑う。
「なんとなく慧君が何を考えたのかは分かるけど、それは俺であって俺じゃないからね」
「でも腹立つもんは腹立つ」
「分かった。脳内の俺に代わって謝るよ、嫌な思いをさせてごめん」
理不尽に責められても怒らないリカちゃんに、隣の席の女が「やばい」って言った。
前言撤回だ、やっぱり周りの視線はどうでも良くない。リカちゃんを責めていいのも褒めていいのも、俺だけだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1201 / 1234