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109.名推理と迷子
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リカちゃんは頭も性格もおかしなやつだけれど、こんな流行りに乗って何かを楽しむタイプじゃない。逆にこういう楽しみ方を鼻で笑うようなひん曲がった性格の男だ。自分の付き合ってるやつを相手に言うべきではないけれど。
それなのに、今日はあえて人前で俺と触れ合おうとする。買い物の時から今の今までずっと、わざとらしく恋人アピールを続けているような気もする。
隠そうとしないのではなくて見せつけている感じ。いくら平日で人が少ないとは言っても、どこで誰に見られているかは分からないのに。それなのに、どうしてだろう。
その理由がわからなくて首を傾げたタイミングで、リカちゃんのスマホの画面が光った。そこには、美馬さんからのメッセージを受信した通知が出ていた。
「リカちゃん、美馬さんから何か来てる」
「ん?ああ……ごめん慧君、何の用か見て」
「そんなの自分で見ろよ」
「豊からの内容を確認するより、俺は慧君に触れていたいから無理」
だから慧君が見てと言われ、仕方なく画面を開く。ロックも何もかかっていないリカちゃんのスマホは、俺の指でも操作できる。見てと言われれば、俺も全てが見れる。見てと言われなくても、見てしまえる。
リカちゃんは、俺がわざとスマホを水没させたことに気づいてる。でも何も言わない。
それだけじゃなく、リカちゃんは、誰からのメッセージが来たか画面に出るように設定し直した。そしていつだって家にいるときは、俺の目につく場所に置く。
まるで「好きにしていい」と言われているみたいだ。実際に好きにしても、きっとリカちゃんは怒りもしなければ気にもしないだろう。
「リカちゃんさぁ」
美馬さんからのメッセージを開きつつ、俺は声をかけた。
「データ、結局戻ってこなかったんだろ?」
「ああ。戻ってこなかったと言っても半年分ぐらいだし。もっとこまめにバックアップを取るべきだったんだろうけど、面倒で」
風呂に入る時も寝る時も、料理を作っている時も掃除をしている時も。ほぼ置きっぱなしのスマホは、俺が水に濡らしたせいで半年前のバックアップしか戻せていない。
「面倒って……わかるけど。でも、消えた中に大事なのあったんじゃねぇの?最近番号交換した人とか」
だからこの半年で増えた連絡先は消えた。もし蛇光さんの番号が入っていたとしても、それはもうない。リカちゃんの方には、だけど。
向こうが連絡してくれば通じてしまう。俺がそのことに気づいたのはデータが消えたと知って、喜んだ後だ。
喜んだ自分に嫌気がさし、向こうからは連絡できる事実にも嫌気がさし。俺のしたことは無駄だったんだと、痛感した記憶は新しい。
「俺にとっては、この中には大事なものよりも余分なものの方が多いんだけどな」
「は?それ、どういう意味?」
「そのままの意味。それよりも豊は何て?」
「あ、うん。えっと……仕事が早く終わりそうなら、久しぶりに桃ちゃんと3人で飲みに行こうって」
内容は美馬さんらしく要件のみだった。ほら、と見せた画面を流し読みしたリカちゃんが、興味なさそうに答える。
「ああ、それなら断っておいて」
「でも久しぶりなんじゃないのか?それに、桃ちゃんからじゃなく美馬さんから誘われるって、あんまり聞いたことないし」
「だとしても慧君の方が優先順位高いからね。ああ、でも一応聞いておこうか」
リカちゃんが続ける。それは最近よく聞くあのセリフだった。
「──慧君はどうしてほしい?」
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