アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
112.今から2回戦
-
それから宣言通り映画を借りた俺たちは、家のリビングで各々寛ぎながら観ることにした。その日の気分でくっついて観る時もあれば、離れた場所に座ることもある。
今日はなんとなく触れていたくて、でも自分のペースも守りたい日。リカちゃんはソファに座って、俺はその足元に腰を下ろした。
手を伸ばせば、すぐにでも触れられる距離。
いつでも好きにどうぞと言っているかのように、伸ばされたリカちゃんの手を触ったり離したり、握ったり抓ったりして映画を観た。
笑えることが評判のアニメなのに、リカちゃんがクスリとも笑わなかったのは、気づかなかったことにしよう。
「慧君、湯冷めするから先にベッドに入ってて」
俺の次にシャワーを浴びるリカちゃんに促され、寝室へと向かう。俺が先に入ってる間に片付けられたリビングを通って、寝室の扉を開けて。目の前にあるベッドよりも先に目についたのは、備え付けの大きなクローゼットだった。
俺が右側でリカちゃんが左側。迷わず左を開けた俺は、今日買ったネクタイを探した。几帳面な性格のリカちゃんらしく、それは扉の内側にあるバーに掛けてあった。
「……うん。これでいい」
俺が買ったネクタイが手前にくるようセットする。こうすれば明日リカちゃんが着替えた時、気づいてくれると思ったからだ。
このネクタイを使えっていう暗黙の了解に。言葉にするのは恥ずかしいけど、しっかりアピールしてしまう自分に照れる。
でもきっとリカちゃんは何も言わず従ってくれると思う。だって、それがリカちゃんだから。
それが俺がリカちゃんを好きな理由の1つだからだ。
「ってかリカちゃん遅いな……」
手持ち無沙汰にスマホを探せば、それはリカちゃんのものと並んでヘッドレストの上にあった。見たいなら見ればいいと告げてくるリカちゃんのスマホを、俺はスルーして自分の方を掴む。
疑ってるわけじゃない。信じていないわけじゃない。
だからって気にならないわけでもない。
でも俺がリカちゃんのスマホを勝手に見ないのは、それをしたら全てが崩れると思っているからだ。そんな事をしてしまう自分自身を、俺は許せないとわかっているからだ。
だから俺はゲームのアプリを起動して、時間つぶしにクエストをクリアして。そうしてリカちゃんを待っていると、家のインターホンが鳴った。
エントランスではなく家に直接ってことは、きっと桃ちゃんだろう。それとも、桃ちゃんと飲んでる美馬さんかもしれない。
スマホを枕に放り投げた俺は、躊躇うことなく玄関に向かう。そして当然のように扉を開け、当然のように桃ちゃんか美馬さんの顔を想像した。
誘いを断らせたのだから、当然俺は美馬さんに謝ろうとした。
すると、玄関先にいた人が、当然のように言う。
「こんばんは、慧くん」
鳴ったインターホンは再戦の合図だ。以前よりも鋭く、以前よりも妖しい視線と声が、俺を迎えた。
「…………なんで」
「なんで来たかって?そうだなぁ、獅子原さんに呼ばれたからかな」
「そんなの嘘だ。リカちゃんはそんなことしない」
「わかんないよ。慧くんが知ってる獅子原さんと、あたしの知ってる獅子原さんは別人かもしれないし」
蛇光さんのクスクス笑う声が玄関に響く。俺はその音が家の中に入るのが嫌で、自分が外に出て扉を閉めた。
絶対に家に入れたくない俺と、家まで来た蛇光さんと。マンションの廊下で向かい合いながら、黙って睨み合う。他の人が見たら見つめ合ってるように見えても、これは戦いだ。
ギリギリと歯ぎしりさえしそうな俺に、蛇光さんが首を傾げて言った。
「慧くん、こわーい。そんな顔してたら、幸せだって怖がって逃げちゃうよ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1206 / 1234