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「なんか久々に会ったらレベルアップしてるし。それに全然老けてないんだけど!僕なんかもう肩凝りが酷くて…」
この人は何が言いたいんだろう。
見た目の穏やかさを裏切るマシンガントークに俺の思考はストップする。
黙ったままの俺を放って1人話を続ける竹虎さん。
その所々に出てくる『過去』の話。
『過去』なんてくれてやる。
けれど『これから』は絶対に渡さない。
「あ、ごめん。つい喋りすぎちゃった。
獅子原くん聞き上手なんだもん」
「そ、そうっすか…」
「桃が好きになるのもわかるなぁ……昔から桃はメンクイだしね。確か高校からの友達もイケメンだったよ。
変わった名前の人だったけど忘れちゃった」
「へぇ……」
間違いなくアイツだろう。
適当に獅子原なんて名乗ってヤバかったかもしれないけれど、幸いにも気づかれてないから黙っておく。
「桃は今幸せなのかな」
グラスの縁をなぞる指。
ところどころ切れて赤い線が浮いている。
よく見れば荒れている手先。
この人は苦労を知っている人なんだろう。
先入観をとっぱらって見れば竹虎さんは『いい人』だ。
「何年も昔の話なんだけど…僕は桃と付き合ってたんだ」
やっぱり。
あの桃さんの態度を見れば誰だってわかる。
「お互いが大学生の頃だった。学部は違ってたけど同じ大学でね。桃はすごく目立ってたから…告白を受け入れてもらった時は夢みたいだった」
俺の知らない桃さんを知っている。
聞きたかった事実が目の前にある。
「本当に夢だったんじゃないかって思うんだ。
だからすぐに醒めた」
外気に触れたグラスの水滴が落ちていく。
それが紙のコースターにシミを作り、どんどん広がっていく気がした。
「2人は付き合ってないよね?
…………それ、もしかしたら僕のせいかもしれない」
違う。
広がっていったのは俺の中のどうしようもなく、ずっと消せなかった不安だ。
広がったシミはスピードを早め侵食を続ける。
始まった崩壊。
もう元には戻らない。
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