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「桃さん。この後予定があるんで」
そうやって嘘の理由をつけて立ち上がる。
「だから今渡しますね」
差し出した花束を見た桃さんが驚き、また笑顔を見せてくれた。
もう、それだけで十分だ。
花束の中から1本、バラの花を抜く。
これで終わりにしよう。
バラが11本になった花束は…俺の本心を隠して新しい意味を持つ。
いや、これはこれで合っているけれど。
もういいんだ。
追いかけて逃げられて、捕まえて…また逃げられて。
それの繰り返しばかりだ。
「これで最後」
きっとあんたは、わからないんだろうな。
この花の意味も俺の気持ちも全部わからないまま。
………でも本当にもういいんだ。
「歩ちゃん?」
何も理解できずにいる桃さんを置いて俺は部屋を出る。
途中で目が合った兄貴に、ただ首を振って笑った。
俺は自分が思った分だけ相手からも思われたい。
兄貴みたいにはなれない。
愛されるより愛する方が幸せなんて嘘じゃねぇかよ。
やっぱり同じ分だけ愛されたい。
じゃないと自信なんて持てない。
マンションを出た俺の手には1本だけ握られた赤い花。
大丈夫。伝えなきゃいけないことはあの花束に全て込めたから。
握ったソレを持って帰る気にはなれず、かと言って捨てるのは嫌だった俺は、マンションの花壇に突き刺した。
そんなことしても無駄だとわかっている。
根の無いソレは簡単に枯れてしまうだろう。
同じように俺のこの気持ちも無くなればいい。
最初は1本だった。
1本のバラ…『運命の人』だと思った。
変な人だと思っていた彼から目が離せなくなって、初めて感じる感情に、きっとこれは運命なんだと信じた。
だから俺は強引に距離を詰めて近づこうとした。
贈ろうとした12本のバラは俺の気持ち。
『俺の恋人になってほしい』
幸せになれるよう、してあげたいという願いを込めて12本のバラを贈ろうと思った。
でも、もうやめる。
独りよがりに気持ちを押し付けるのはやめる。
だから俺は1本抜いてあんたに贈るんだ。
これは俺からの最後の告白だから。
気づいて、気づかないで…そう願ってる。
たった数日の短い間だったけれど。
あんたは俺にとって11本のバラだった。
ー…『俺の宝物』だったんだ。
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