アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
414
-
「バイトとかしてた?」
「高校生の時は短期で何個か。大学入ってからは塾講師やってたよ。俺、19の頃から先生って呼ばれてたから教師になっても違和感なかったかな」
「じゃあ車はその頃の貯金?」
「いや。高校卒業してすぐ一人暮らしだったからなぁ…貯金する余裕なんて無かった。
でもお前はしておけよ。必要なものは何でも俺が買ってやるから」
相変わらず男前なことを言うリカちゃんは俺の髪を指に巻き付けて遊ぶことに夢中だ。
「じゃああの車は就職祝い?」
「まぁそんなもん。
それよりも…お前、夏休みぐらいは実家帰れよ。
春休みもGWも帰ってなかっただろ」
なんだか話を逸らされた気もするけれど、痛いところを突かれたから何も言えない。
起き上がったリカちゃんがタバコを取り出し咥える。
カーテンの隙間から西陽が差す室内でシガレットケースのシルバーがキラリと光った。
俺がプレゼントしたそれを指でなぞった後、ポケットに戻す。
「そろそろ進路も考えなきゃなんねぇんだからな」
「そう、だけど……どうせあの人は俺のことなんかなんとも思ってねぇよ」
父さんとはもう何ヶ月も話していない。
毎月、決まった日に決まった金が振り込まれるだけ。
何かあれば秘書の人か兄ちゃんを通して連絡してくる。
「そんなんじゃ星一だって怒るぞ」
「……言われなくてもわかってるよ」
いつかは話さなきゃいけないことはわかってる。
これから進学するにしろ就職するにしろ報告はするべきなのもわかってる。
「盆休みは帰れよ。俺も用事あって家空けるから」
「用事って何だよ」
初めて聞いた話にリカちゃんを見るけれど、いつもと変わらない顔でタバコを吸っていた。
「大したことじゃないから気にすんな」
「それなら勿体ぶらずに教えてくれてもいいだろ」
「昔の知り合いに会いに親父の実家に寄るだけだよ」
「昔の知り合いって誰?」
「……大嫌いなやつ」
その顔は本当に嫌そうで、眉を顰めている。
リカちゃんが誰かをこんなに嫌がるのは珍しい。
鬱陶しい、面倒臭いと言うことはあっても、リカちゃんは人を悪く言ったりはしない。
「そんなに嫌いなヤツなら会わなきゃいいのに」
「そういうわけにもいかねぇの。お土産買って帰ってやるからお前も自分の家に帰れ」
タバコを消し、立ち上がって向かっていくのは窓。
かかっていたカーテンを開ければ部屋がオレンジ色に染まる。
うっすら窓に映って見えたリカちゃんは驚くほどに真剣な顔をしていた。
それなのに、ガラス越しに俺と目が合った途端に笑う。
「ちょっと来て」
そして俺を手招きした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
414 / 1234