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「慧っ!シャーペン貸して!」
拓海の手が俺のペンケースに伸び、中からシャーペンを出そうとする。
その手に握られたオレンジ色を見て咄嗟に奪い取った。
「こっち使って」
拓海に渡したそれは、さっきまで俺が使っていたシャーペン。
机の上に転がってたのを渡せば拓海は不思議そうにしながらも黙って受け取り、課題に集中し出す。
「すっげぇ束縛」
「うっせぇよ」
白けた顔した歩が俺を見る。
俺の手に握られたライオンは今日もウインクを飛ばしているが、それは今の雰囲気とは合わない。
「それを本人に向かってやってやれよ」
「出来るかバカ」
それが出来ないのが俺なんだ。
素直に好きと言えない、流れを作ってもらわなきゃ何も出来ない。
それが俺でリカちゃんはそんな俺をわかってくれてる。
「…………脆いな」
「あ?」
「べっつにー」
やっとスマホを見た歩はそれ以上答えてくれず、俺に視線すら向けない。
かたや拓海は課題に必死で声をかけるのすら憚れる。
「お前は俺のことわかってくれるよな?」
手の中の彼に小さく話しかけても返ってくるのはウインクのみ…って当たり前だ。
「拓海。お前それ何時に終わる?」
「あとちょっとー。英語だけは適当にしたら殺されるから待って」
「その判断は正しいな。んじゃ7時って言っとく」
歩の意識はまたスマホへ戻る。
手早く指を動かし、すぐにまた震える。
……桃ちゃん返信早すぎだろ。
俺はスマホを握りしめて待ってる桃ちゃんを想像してしまった。
「拓海がそれ終わったら買い出しな」
「なんの?」
「この後手巻きすんだって」
急に決まった予定……きっと桃ちゃんが言い出したんだろう。それをすんなり受け入れる歩も大概甘いと思う。
「……あ、ちなみに慧は準備手伝わなくていいから」
「なんで」
「お前の旦那からの命令。慧には何もさせるなって」
旦那………思い浮かぶのは間違いなくあいつだ。
一体いつの間に連絡をとってたんだろうか。
歩も桃ちゃんも行動が早いっつーか、なんというか…。
「お前さ、褒め言葉じゃねぇのに照れるとかドMか」
「………Mじゃねぇし」
「SMバカップル公認だな」
「うっせぇ。それより桃ちゃんに返事してやれよ」
もう歩に何を言われてもイライラしなくなったのは、きっと手巻きが楽しみだからだ。
決してリカちゃんが俺を気にかけてくれたからじゃない。
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