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テーブルに戻れば2人は仕事の話をしていた。
俺のことは見ないくせに恒兄ちゃんとは目を合わせて会話する父さん。
「慧。デザートは?」
恒兄ちゃんはそう聞いてくれるが、俺としては1秒でも早くここを出たい。
というより父さんから離れたくて仕方なかった。
首を振って答えればすぐさま父さんは席を立ってしまう。
続いて恒兄ちゃんが立ち上がり、俺もその後ろを歩いて行く。
また、さっきの匂いがした。
「会計してきます」
残される俺と父さん。
俺なんか置いてさっさと行けばいいのに…もちろん話などする気にならず、ぼんやりと床を見つめていた。
「今日も泊まるのか?」
聞こえたのは父さんの声。こちらを見てはいないけど俺に向けての言葉。
「帰る」
「…そうか」
俺がいなくなったから今日はホテルじゃなく家に戻るんだろうか。
わざわざ俺に直接聞かなくても恒兄ちゃんに聞けばいいのに、本当に人の気持ちを考えない人だ。
「心配しなくてももう来ないから」
俺をやっと見た父さんが何か言おうしてと口を開く。
それを止めるようにかけられた声。
「やっぱり兎丸さんでしたか」
その声の先には高そうなスーツを着たおじさん。後ろに数人ひきつれてこちらへと向かってくる。
「先ほどお見掛けしたんですがね…おや、こちらは?」
俺に視線を向けたおじさんがそう父さんに聞けば…
「これは親戚の子です。休みを利用してこちらに遊びに来ていまして」
「そうでしたか」
父さん達はまだ何か話しているが、俺の耳にその内容は入ってこない。
遠い親戚の子だと…親子ですらないと言われてしまったこと。それが頭の中でループする。
わかっていたのに。この人は俺のことなんてどうでもいいんだって。
けれど言葉にして言われてしまうと、少しだけ期待していた心が抉られたような気がした。
とどめを刺された…と言った方がいいのかもしれない。
「お待たせ…って慧、どうした?」
戻って来た恒兄ちゃんに呼ばれ顔を上げる。
俺の目に映るのは1人……父さん、だった人。
「もうアンタには会わない」
1秒たりとも視線はそらさない。
「アンタなんかいらない」
全く表情を変えない目の前の男。
「慧、ちょっと待って」
「恒二。止めるな」
ほら。俺に何言われたって平気なんだろ。
どうでもいいんだから何とも思わないだろう。
仕事ばかりで俺のことなんか放っておいて
母さんも星兄ちゃんもどうでもよくて。
会社のことしか考えてない。
そんなアンタが、俺は世界で1番大嫌いだ。
「お前は私が嫌いか?」
さっきまで父親だった男が問いかける。
それに俺は考える間もなく答える。
「嫌いなんかじゃなくて俺はアンタが大嫌…」
『大嫌い』確かにそう紡がれたはずの言葉が途中で消えた。
俺の身体を包むアイツとは違う甘い匂い。
俺の口を塞ぐアイツと同じ少し冷たい手のひら。
何度も思い出して何度も求めた声。
「それは言っちゃ駄目」
「な、んで…」
振り返った先にあるのは間違うはずのない人物。
なんで、ここにいるのだろうか。
「1人じゃない。俺がついてる…って約束したろう?」
ここにいるはずのないリカちゃんが笑っていた。
数日前に別れた時と同じ偉そうで、それでいて胸が苦しくなるほど焦がれた姿がそこにある。
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