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フィルターを通して吸い込んだ煙を吐き出す。
この煙のように消えてしまいたいと何度も思った。
俺には生きる意志などなく、ただ周りに生かされているだけの日々を過ごした。
言いたいことが言えなくて、言葉を発するのが怖かった時もある。
誰かと目が合えば責められている気がして下ばかり向いていた時だってある。
そんな俺だからわかること。
「桃。無かったことには出来なくても、やり直すことは出来る。1回で伝わらなかったら10回でも100回でも言ってやれよ。必ず次があるとは限らないんだから後で後悔するよりいいだろ?」
「リカが先生みたいな事言うと反論できないじゃない」
「だから先生だって言ってんだろ。ってことで今回はお前に非があるんだから自分から謝れよ。
俺はそこまでお膳立てするつもりないからな」
自分が悪いとわかっている桃。頬を膨らませながらも、その表情は納得したように見えた。
きっとこうやって歩と桃はお互いをわかっていくんだろう。
視界の端に少しだけ開いた扉が映る。ウサギが入ってくるタイミングを窺ってるに違いない。
ウサギは俺の言ったことの本当の意味に気付かないはず。でも俺はそれを教えてやることが出来ない。
だから早く気付いてくれと思う気持ちと、いっそ気付かないままぬるま湯に浸かっていたい気持ちが葛藤する。
「そんなとこ突っ立ってないで入って来いよ」
声をかければゆっくりと扉が開き、思った通り赤い顔をしたウサギの姿がある。
「盗み聞きしてんじゃねぇよエロウサギ」
「…うっせぇ」
返事にすら照れが混じっているところが可愛い。
本当に短所ですら愛おしいと思えるんだから不思議だ。
「俺ちょっと電話してくるから」
2人を残して部屋を出る。
数分して戻れば、すでに話題は歩のことから最近流行りのスイーツに変わっていた。
それを換気扇の下で眺めながらタバコに火を点ける。
よく笑うようになった。喜んで怒って泣いて笑って。
ウサギは毎日を楽しそうに過ごして幸せそうに眠る。
俺が奪ってしまったものは大きいけれど、それすら乗り越えてアイツは成長したと思う。
愛されることも愛することも知って人に優しく出来るヤツになった。
好きが…思いが募れば募るほど伝えきれなくて溢れてしまう。だから言葉にできない分は態度で伝え続ける。
自信を持って生きていけるよう。
自分の道を見つけて進んでいけるよう。
俺は嫌われたとしても構わない。
だってお前の為に生きている。
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