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住宅街に建つ普通の一軒家。何度も訪れたことのある家の門の前に立つ。
隣の歩がためらうことなくチャイムを押した。
「はい」
聞こえてきた声から察するに拓海のお姉さんの聡海さんだろう。聡海さん…イイ人なんだけど俺はちょっと苦手。
「こんにちは。歩です。拓海って帰ってますか?」
「たっくんなら学校帰りに買い物に行くって言ってたわよ。確か駅前のショッピングセンターだったはず」
駅前に用があるなら俺たちと一緒に行けばいいのに。これは本当に彼女がいるってのが濃厚だと歩と2人頷く。
「ありがとうございました。ちょっと行ってみます」
「あ、待って!!今日は慧君は一緒じゃないの?」
ほら来た。なぜか聡海さんは俺を気に入ってくれてるらしい。
そして鳥飼家の愛情表現はやたらと激しい。
長男の紘海くんは拓海を溺愛してて、長女の聡海さんは俺、末っ子の七海ちゃんは歩に懐いてる。
学校行事の度に抱きしめてくる聡海さんが俺は少し苦手。兄ちゃんしかいなくて女の人と接することの無い俺にはどう対応していいかわからないんだ。
いないと言え、と歩に視線で伝える。
「慧は今日は一緒じゃないです。アイツ今は恋人を束縛すんのに忙しいから」
「なっ!」
何言ってんだよ!と言おうとして咄嗟に口を噤んだ。ここで声を出してしまったら俺がいることがバレてしまう。
「えっ!!慧君って彼女できたの?!」
「はい。すっげぇ強い女王様みたいなのが」
「やだーっ!!!!」
何が嫌なんだ…。もう行こうと歩の服の裾を引っ張る。これ以上は時間の無駄だ。
「聡海さん、俺もう行きます。ありがとうございました」
「もう?上がっていけばいいのに…七海ももう少しで帰ってくるよ」
「拓海探さなきゃなんで。また今度慧も連れてきます」
余計な一言を付け加えた歩がニヤッと笑う。俺が女の人苦手なの知ってるくせに!
「さ、駅前行くか。拓海の彼女…もしかしたら嫁さん見てやろうぜ」
「嫁さんって」
「だって妊娠してて父親になるって言ってたんだろ?それなら結婚する気じゃねぇかよ」
あの拓海が結婚…全然想像つかねぇよ。俺たち3人の中で1番ガキだと思ってたのに父親になる。それが似合う似合わないじゃなくて考えられない。
「まぁ俺もお前も子供は無理だしな。拓海の子供なら可愛がれると思う」
「子供?あ…そっか」
リカちゃんと付き合ってる俺と、桃ちゃんと付き合ってる歩。どんなに思い合っていても手に入らないモノがある。
男同士って理解されにくいし後ろ指を指されることの方が多いだろう。
「俺は別に子供好きじゃねぇし桃さんがいればいい」
「お前それは桃ちゃんに言ってやれよ」
「こんなの本人に言えるのはお前のとこのイカれた旦那ぐらいだろ」
リカちゃんなら言いそう…っていうか何度も言われてきたけど。
けれど今のリカちゃんは本当にそう思ってくれてるんだろうか?
いつも俺はたくさんの言葉と真っすぐな態度で愛情表現されてきた。今は感じられないそれに少し…かなり胸が痛くなる。
「なんつー顔してんの。教頭から助けてくれたのは兄貴だったろ?お前はちゃんと大事にされてるって自信持てよ」
「歩が人を励ますなんて珍しい…」
「俺ほど優しい男はいねぇ」
それお前の俺様兄貴も言ってたけどな。
さすが似たもの兄弟。
それならリカちゃんが今何を考えてるか歩ならわかるんだろうか……って、そんなワケあるかよ。
今はそのことは忘れて拓海を探そう。
また浮かんできそうな嫌な考えを無理矢理頭の片隅に押しやって、俺は現実を見て見ぬフリをした。
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