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「なんか最近…つっても一昨日からなんだけど豊さんが変なんだよ。急に帰れって言ったり、昨日の夜だって電話したのに折り返しもない」
拓海はちょっと拗ねたような、それでいて寂しそうだ。友達が多くて誰かに嫌われたり誰かを嫌うことがない拓海には初めてのことなんだろう。
「別に普通じゃね?美馬さんにだって誰かと話したくない時ぐらいあるだろ」
俺がそう言えば歩が続く。
「仕事が忙しいとか理由あんじゃねぇの。お前は無駄にテンション高くて疲れるんだよ」
ちょっと歩のは一言余計だけど、まぁ間違ってはいないから何も言わずに俺は黙ることにした。
ムッとしながら拓海が言い返す。
「あの豊さんだぞ!桃ちゃんがどんだけバカでも、ちゃーんと相手する豊さんがだぞ?!」
「お前人のをバカとか言ってんじゃねぇよ」
「歩、今はそこスルーしとけよ。話が進まなくなんだろ」
ちょっと前にケンカしたと思ったら今は『俺のモノ』発言。やっぱり歩の考えてることはわからない。
そして、誰よりも謎だらけのヤツがやっと現れた。
音を立てないように扉を開け、1番に真向かいに座っていた俺を見る。首を傾げて笑った後に口パクで「ないしょ」と伝えながらこちらへ歩いてくる。
一歩一歩ゆっくりと近付き、標的の真上に立った。
「なぁ。自分が目付けられてるのを忘れたのか?牛島君」
「あ?」
「鍵もかけずに堂々と喫煙ってバカか」
言うや否や歩のタバコを奪い、いつも持ち歩いている携帯灰皿へと捨ててしまった。
冷めた目で歩を見下ろしたリカちゃんは先生モードだ。
「ちょっとは控えろ。今は懇談と修学旅行前でこっちもピリピリしてんだから」
「…うっざ。そういうお前だってド変態の淫行教師のくせに」
歩の暴言にさえ教師モードのリカちゃんは笑顔を返す。けれど、それがだんだん黒い笑みに変わっていくのを俺は感じていた。
目は笑わずに口角だけを上げて微笑むのが変態教師じゃなくドS教師の獅子原先生が降臨した証拠だ。
リカちゃんがしゃがんで歩と同じ目線になった。
歩とリカちゃんの身長差は5センチぐらい…それが同じになるってことは、リカちゃんって足長すぎないか?
(腕も指も長いしコイツ本当に見た目だけは完璧だよな…見た目だけは)
なんて思う俺の目の前で、リカちゃんの腕が動く。そしてキラキラと輝く金色を掴んで引き寄せた。
その行動に俺と拓海は揃って短い悲鳴を上げた。
目の前には弟の前髪を鷲掴んで笑う兄と、それを睨みつける弟。黒と金色が正反対の表情で顔を突き合わせている。
「俺さぁ…今すっげぇ機嫌悪いんだよ。優しく言ってやってるうちに聞いといた方が賢いと思うんだけど」
「お前の都合なんて知るかっ…離せよ!」
「へぇ。反抗するんだ?お兄ちゃんにお仕置きされるか、先生にお仕置きされるか…どっちがいい?」
「お仕置きってマジで変態だな」
お仕置きのフレーズに俺の隣の拓海が激しく反応する。この俺様リカ様状態のリカちゃんに反抗できる歩はすごい。すごいけど無謀すぎる。
「今までの素行の悪さを誰がカバーしてやってると思ってんの?」
唸っていた歩が黙る。目だけは鋭くリカちゃんを睨みながらも何も言い返せない。
それもそのはず、だって今までの歩は遅刻も早退もサボりも全て常習犯だ。特に歩は俺たちの中で1番ひどい。
リカちゃんがごまかしてくれなきゃ出席日数足りてるのか怪しいところ。もし足りなかったら進級できないかもしれない。
「勉強だけが全てじゃねぇだろ。結果が欲しけりゃ少しは考えて自制しろクソガキ」
リカちゃんが顎で示したのは歩の持っている参考書。
「いくら成績が上がったって卒業できなきゃ意味ないんだからな。せっかくの努力を自分で無駄にしてどうする」
ここに来たのがリカちゃんじゃなかったら間違いなく歩は停学処分、最悪の場合は退学だってありえる。それを言う為にリカちゃんはこうやってキツイ態度で教えるんだ。
態度と言葉は厳しいけど、ちゃんと最後に努力してるのを認めるところは先生らしい。
さすがリカちゃん先生だと思った。
リカちゃんじゃなきゃ躊躇いもなく他人の前髪を掴んだりできないだろう。
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