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迷子センターに男の子を連れて行くと言うリカちゃん。やっぱりリカちゃんに抱っこされるのが落ち着くのか、男の子は喜んで首にしがみついた。
「慧、お前ついていけよ」
歩が俺にそう言ってくる。なんで?と首を傾げる俺と拓海を冷めた目で見ながら歩が首の裏を掻いた。
「最初に見つけたのはお前だろ。どこで見つけて、どんな感じだったか聞かれるかもしんねぇし」
「でも慧は英語話せないからムダじゃね?」
「そこは兄貴がいるんだから問題ない」
リカちゃんを見れば肩を竦めて笑った。その意味がわからない俺を手招きする。
近寄った俺の耳元でこっそりと教えてくれる。
「なに?」
「せっかくだし少しだけデート。歩なりに気を利かせてくれてんだから甘えとくか」
まだ首の裏に手を当てたまま、そっぽを向いている歩を指さしリカちゃんは言う。
「歩のあの癖。アイツ照れてんの隠す時にするんだよ」
顔は無表情で口は悪い。でも歩なりに俺とリカちゃんの時間を作ってくれようとしたらしい。俺と同じで素直じゃないからわかりにくすぎるけどな。
「じゃあまた集合場所で」
2人に手を振って別れる。迷子センターまでは少し遠く、リカちゃんと並んで歩いた。
知らない場所で知らない言葉ばかり。周りにはたくさんの人…その中で頼れるのはリカちゃんしかいなくて、気付かないうちに迷子にならないよう服の裾を掴んでいた。
「どうした?」
「別に。お前がはぐれたらその子が可哀想だと思って」
「この場合迷うのも困るのもお前だけどな」
前を向いたままクスクス笑ったリカちゃんが続ける。
「大丈夫。お前が迷ったら俺が必ず見つけだしてやるから。だから一杯悩んで迷ってすればいい」
「その前に迷わせんなよ」
「たまには迷うのも大事だからな。じゃないと何も成長しない」
それは俺が子供だって言いたいのか?
ムッと睨むけどリカちゃんは穏やかな顔で前を見ていた。
「リカちゃんってたまに母親みたいなこと言うよな」
「なにそれ。せめて父親って言えよ」
父さんとは少し違う。俺はもう母さんのことをほとんど覚えてないけど、普通の母親が言いそうなセリフだと思った。
普通の母親…拓海や歩のおばさんみたいな。
「別に母親なんていなくても生きていけるのに」
自分の母親を見失って探して泣いてた男の子。俺にだってそんな時はあった。
でもどんなに泣いても、いい子にしてても母さんは帰ってこなくて。
自分は捨てられたんだってわかった時、その時にはもう泣くこともなくなっていた。
別にいなくても平気なヤツのことを考えるだけムダだ。
向こうも俺がいなくて平気だから捨てたんだし。
「ママ、ママってバカじゃねぇの。男なら簡単に泣くなよ」
リカちゃんに抱っこされている男の子に話しかける。俺の言葉がわからないからキョトンとして俺を見る。
その目が「可哀想なお兄ちゃん」って言ってる気がして俺は自分から目をそらした。
別に俺は可哀想なんかじゃない。
俺には拓海や歩が、友達がいる。
桃ちゃんや美馬さんだっている。
「慧君の顔が怖くてビビってるじゃねぇかよ」
よしよしと宥めるリカちゃんを独り占めする男の子。
「……ふん。子供だからって俺は甘やかさないからな!」
それに、なによりリカちゃんがいる。
だから俺は可哀想なんかじゃない。
迷子センターで母親を見つけた男の子が走っていくのを俺はぼんやり眺めていた。
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