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「もうさ、離れる?」
「付き合ってても邪魔なだけだろ」
「いらない」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
「何言ってんの?」
思ったことをそのまま口にした俺にリカちゃんが向けたのは意地悪でもなく、冷たくも優しくもない視線。
「そのまま。そんなに関わられんのが嫌なら離れるかって聞いてんの」
まさかリカちゃんからそんな言葉が出てくるとは思わなくて。だってリカちゃんはいつも俺のワガママを聞いてくれたし、俺だけだって言ってたし…それに置いて行かないって言ってくれた。
それなのに今言われたことは真逆だ。なんで?急になんでそうなんの?
「……悩んでんじゃねぇよ」
頭が考えるのをやめた俺にリカちゃんが何かを呟いたけど聞こえなくて、もう一回言ってって言えば「離れるかって聞いたんだよ」と返ってきた。
いつもみたいに「バカじゃねぇの」って返した方がいいんだろうか、それとも「やだ」って言った方がいい?頭の中がグルグル…グルグル回る。
何も答えないでいると深いため息をついたリカちゃんが立ち上がった。俺の腕を引いて扉まで連れていこうとする。それでやっと声が出た。
「とにかくもうすぐ点呼だから帰れ」
「やっ、リカちゃんやだ!!」
「やだは聞けない。もう周りに迷惑かけらんねぇだろ」
リカちゃんに俺は力じゃ敵わない。どんなに抵抗してもリカちゃんは俺を追い出そうとする。
「騒いだら他のヤツに見られるから」
そう言われてしまえば俺は何もできない。黙ったまま引っ張られ、部屋の外に出された。
少しだけ扉を開けたままリカちゃんが口を開く。
「さっきのは嘘だよバーカ。
慧君ってば本気にしちゃって可愛い」
それを期待したのに。
「どうするかはお前が決めていいよ。決まったら教えて」
そう言われて目の前で閉じた扉。オートロックの鍵が閉まった音が聞こえる。
俺が決めていいって…リカちゃんはどっちでもいいってことだろ。俺がいてもいなくても変わらないんだろ。
リカちゃんに振り回されるのも、からかわれるのも慣れた。コロコロ変わる態度も考えてることがわかんないのも…きっとリカちゃんにはリカちゃんなりに何か考えがあるんだって思えるようになってきた。
でも勝手に母さんと会って、俺に会いに行けって怒って。それを嫌がったら離れるかって言われて。あまりにも勝手すぎるその行動に腹が立った。
リカちゃんの部屋の扉を蹴って俺は廊下を後にする。
明日会ったら絶対に文句言ってキレてやる! でもってリカちゃんに謝らせて許してくださいって言わせてやる。
貰ったブレスレットを揺らしながら部屋に戻り、寝ている歩を起こさないようシャワーを浴びてからベッドに入った。
俺は朝になればリカちゃんがいつものリカちゃんに戻ってると思ったんだ。
「牛島に鳥飼、今日は問題起こすなよ…あと兎丸、昨夜渡したやつ忘れてる」
翌朝、廊下で会ったリカちゃんから渡されたのは俺が捨てたあの手紙。あの女からの手紙だった。
「昨日言ったこと本気だから」
すれ違いざまに言われた言葉に、俺はリカちゃんが本気なんだって知る。そしてリカちゃんはやると言ったらやる男だ。
「嘘だろ…」
いつも俺の前にあったはずの大きな背中がどんどん遠くなっていく。待ってと伸ばした手は届かなくて、それに気付いた拓海が俺を不思議そうに見た。
「慧どうした?リカちゃん先生に用事?」
「なんでもない」
とりあえず帰ってからちゃんと話さなきゃ。
そうやって嫌なことを後回しにしてしまうのは俺の悪い癖だ。
何気ない毎日が、いつも通りの明日が必ずやってくるとは限らない。
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