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「臭い」
扉を閉めた途端にかけられた声。陰に身を潜めていた男が姿を現す。
「ったく…証拠は消せってば」
「持ってくるの忘れたんだよ」
俺に消臭剤を振った兄貴は声を潜めながら小言を言ってくる。
「なんでここにいんの?担任がサボってていいのか?」
「もう終わったっての。見張っててやったんだからありがたく思えよ不良少年」
俺の髪をグシャッと乱した兄貴が階段を下りて行く。俺もその後に続いた。
一定の距離をあけて歩くのは教師と生徒の関係だからだ。学校じゃ兄貴は俺を生徒として扱う。それは慧も同じ……そんな器用な使い分けは俺には出来ない。
階段を降りながら俺は兄貴の背中に話しかけた。
「なあ。本気で慧と別れんの?」
「それアイツが言ってたのか?」
「言うかよ。慧がどんな反応するかなんてお前が1番知ってんだろ」
慧がああやって「わかんない状態」になるのはよくあることだ。っつーか慧の悪い癖。わかんない、わかんないんだって言ってパニック起こして最後はキレる。
「知ってるからこそだろ。俺よりアイツをわかってるのはいないだろうな」
「すっげぇ自信」
それならもっと甘くしてやればいいのに…今まで溺愛してたんだから急に突き放されたら誰だって戸惑う。それこそ、慧ほど依存してたなら尚更だ。
「自信なんて無いからああやって縛るんだよ」
「縛る?またSMプレイしたのか?」
俺を見る兄貴の目が呆れている。
「見えない言葉で縛ってんの。縛りつけてどこにも行けないようにしてる。じゃなきゃ仕事なんてしてられるか」
何があっても平気な顔してなきゃなんねぇのって辛いんだろうなと思った。それが大人なんだって言われたら自分が数年後にそうなれるとは思えない。
そのまま兄貴について科目室まで来た。
「お前さ…自然とついて来てるけど次も授業だろ。あと5分でチャイム鳴るぞ」
「最後に1つ聞きたいんだけど。兄貴はまだアイツが好きなんだよな?」
答えのわかりきった質問をする俺に兄貴が笑う。その横顔だけでも慧に対する気持ちは変わっていないんだってわかるのに。
だって兄貴ほど一途なやつを俺は知らないから。
当然だろって返ってくるのを予想していた俺は、兄貴の返事に戸惑う。
「好きじゃない」
「は?」
「好きなんかじゃないって言ったんだよ」
表情と雰囲気では好きだって言ってるくせに、口から出たのは真逆だった。こんなにも兄貴が何考えてるかわからないのは初めてだ。
「へぇ…もう好きじゃねぇなら別れれば?」
「そうじゃないんだよなぁ…」
扉にもたれ、長い足を組む。さっき自信なんて無いっていったのは嘘だろって思うぐらい余裕で、それでいて絶対に負けないって気迫を感じる。
「好きとかそんな単純なもんじゃないんだよ。俺はもう戻れないとこまで来てるから」
「なに言ってんのお前」
「俺は見えないものも見えるものも全部欲しいんだ」
扉を開けて兄貴が中へ入る。俺ももう教室に向かわなきゃいけないのにまた含みを持たせたことを言う男を睨んだ。
「そう睨むなって。友達のポジションぐらいはお前らにくれてやるから」
「なんだよそれ」
「歩。お前は俺みたいになるなよ。きっと俺のしてることは間違ってるから」
笑いながら扉を閉めた兄貴は全くもって意味がわかんねぇ。でもわかったことが1つある。
慧が思ってる以上に兄貴はぶっ飛んでる。
どう足掻いても兄貴は絶対に慧を手放さないし逃がさない。
「あいつやっべぇな…重すぎ」
どうやら俺の兄貴はとことんヤバい男らしい。
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