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「酷いってなんで?」
リカちゃんは俺のことを残酷だって言った。そして拓海は酷いヤツだって言う。
「ここまで思われててなんでわかんねぇの?」
「だから何がだよ」
「慧はさ、リカちゃん先生が隣にいるのが当たり前だからそうやって言えるんだよ。でもリカちゃん先生はそうじゃない」
俺の気付かなかったことにすぐに気付いた拓海。
リカちゃんが、歩が教えてくれなかったことを拓海が教えてくれる。いつも俺がバカにしてた、俺たちの中で1番そういう話題から遠いはずだった拓海が。
真面目な顔して語る拓海を俺は知ろうとしなかった。こうやってみんな成長して前に進もうとするのを、俺は見ないフリをしてきた。
そうしなきゃ取り残される気がしたからだ。
「リカちゃん先生はいっつも慧に選ばれてきたんだよ。だっていつも慧の好きにさせてくれんじゃん。なんだかんだ言いつつ待っててくれんじゃん」
「俺はそんなつもりねぇよ」
「慧は一緒にいたいからって理由だけで大学選ぶの?その後は一緒にいたいからって理由で仕事も選ぶつもり?」
きっとそうすると思う。だから俺は素直に頷いた。
「それの何がダメなんだよ」
「そんなのリカちゃん先生は望んでないと思う。
慧がそうする度に先生は辛いんじゃないかな…だから俺は慧は酷いヤツだって言ったんだ」
どういう意味か首を傾げる俺に拓海は真剣な眼差しのまま口を開く。
「慧がそうやって考えちゃうのは好きだからって理由じゃない。きっと先生も、歩も同じだから怒るんだよ」
ややこしい言い方に俺の頭がパンクしそうだ。もう精一杯詰め込んでるところに、また意味のわからない話が入ってくる。
「お前の言ってる意味がよくわかんねぇよ」
「じゃあわかりやすく言ってあげる。
先生なら誰からも庇ってくれて慧のことを1番に考えてくれる。だから先生を選んでおけば自分は1人にはならないって考えてる…違う?」
「それは…」
「慧。慧が先生を好きなのは見ててわかるよ。その気持ちまで疑ってるわけじゃないから正直に答えて」
拓海が言ってることは当たってる。
拓海と歩と別々の道に進んで俺はまた1人になるかもしれない。それなら、せめてリカちゃんの傍にいたい。
だってリカちゃんなら俺を見ててくれるからだ。
1人が怖くて怖くて仕方ないから、俺にとって最大の味方である近くにいれるよう、今の状況を維持できるように必死なんだ。
「それの何がダメなんだよ!好きなら、できるだけ一緒にいたいって思うのが普通だろ?!」
「そう思う気持ちがダメなんじゃない。でも慧とリカちゃん先生は違うだろ?先生はどんな時も慧を思って、慧の為に何でもしてくれただろ?」
伝わらなくて唸る俺に拓海は悲しそうな顔をする。
なんで拓海のことじゃないのにそんな顔するんだよ…本当に悲しいのは俺だろ?!
「慧はリカちゃん先生が信じられない?」
「…そんなことない」
「でも今一瞬だけ躊躇ったじゃん」
指摘されて悔しくて拓海を睨んだ。それでも拓海は怒らず、すげぇ冷静に返してくる。
「不安ならさ、不安って言った方がいいよ。慧はもっと思ったことを言った方がいい」
「言ってる!言ってるのにリカちゃんが聞かないから」
「言ってないよ。先生ならわかってくれるって思ってるから大事なこと、なんにも言えてない」
リカちゃんが俺の為になんでもしてくれてるのは俺だって知ってる。ちゃんとわかってる。
それなのに俺はリカちゃんを疑うしすぐ心配になるし、自分じゃ何も決められない。
リカちゃんに「大丈夫」って言ってもらわないと不安で、でもそれが悔しいし反抗したくもなる。
俺は俺だけでやっていけるんだって言いたくなる。
「慧は本当にリカちゃん先生好きだよなぁ…」
「なんだよ急に」
「だってさ、先生と付き合うまでの慧だったら「別にどうでもいい」とか言って考えようとしなかったじゃん。それが今はすげぇ必死なんだもん」
考えるのも悩むのも疲れるから嫌いなんだ。俺は俺で誰の指図も受けたくないし、したい事をしてのんびり暮らしていたかったはずなのに。
「慧、なるようになるんだって!どうせ悩むなら思ったこと言ってから悩めよ!!」
バシンッと俺の肩を叩いた拓海はいつものニコニコ笑顔だ。父さんも拓海も、そして多分歩だって味方してくれてる。
「…わかった。俺もう一度リカちゃんと話す」
「それがいい。そうと決まったなら今日話そう!!」
「えっ、今日?!」
「うん。じゃないと明日には変わってるかもじゃん。明日は明日、今日は今日。思い立ったがなんとかって言うだろ?」
本当に早すぎない?いい加減にしろって怒られない?
不安と迷いが俺の心を占めていく。そんな俺の手を拓海が強く握った。
「大丈夫だって!考えるのも悩むのも1人で出来る。今は1人じゃ出来ないことをする時なんだよ」
「本当に大丈夫…なのか?」
「俺の勘を信じろ!」
大きく頷いた拓海に俺は覚悟を決めた。
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