アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
638
-
*
「帰りましたよ」
かけられた声を聞いて俺は姿を現す。
「危ない危ない。咄嗟に隠れて正解だったろ?」
「その割には焦ってタバコ忘れて行きましたけど。慧がリビングに入らなかったから良かったものの…」
恒二が呆れながら言うが正しくその通りだと思った。開き直れば行動が早いのは知っていたけれど、まさかこんなに早く会いに来るとは。
俺の時もそして今回も、思っていたより積極的なウサギに驚きを隠せない。
「シャッターを下ろしてなきゃ車が見えて確実にバレてましたよ」
「だろうな。不幸中の幸いってこういう事かも」
ウサギが来る10分ほど前に俺もここに着いた。到着して車を停め、恒二と話しているところでアイツから連絡が来たのだ。
ウサギが家を出た時に連絡しなかったのは、最後までここに来るか悩んでいたからだろう。それでも決心を付けたのは褒めてやりたい。
「子供の成長ってすげぇな」
呟いた俺に恒二は冷たい視線を浴びせる。その意味はわかっている。
「はいはい、俺のせいだって。お前の弟を泣かせたのは俺だよ」
「だから泣かすなって言ったのに。やり方が荒い」
「わかったとは言ってないだろ」
恒二が俺とウサギの仲を認める条件は『慧を泣かさないこと』もちろん俺はそれに善処すると答えた。
だから嘘はついていない。
「本当に性格が悪い」
「そうか?昔は星一に似てるってよく言われたけどな」
「だからですよ!兄さんは慧には甘いけど俺には悪魔だったから…っ」
「お前の弟が可愛すぎる故だな。どうもアイツは庇護欲をそそらせるところがあるし」
ムッとした恒二はソファに座り、ため息をついた。
「なんですか?そんなに見られると落ち着かないんですけど」
ウサギの前では冷静な恒二が感情を露わにするのは珍しい。それほど恒二も弟思いなんだ。
言葉に出さなくてもお前の味方はたくさんいる。見えないところで知られないように今日もお前は守られてる。
でもその中でも俺は群を抜いてるけれど。
「じゃあ行ってくる」
「獅子原さん……」
「大丈夫だって。俺に任せておけよ」
ウサギの母親はあの部屋から一歩も出ない。恒二ともあまり話そうとしないらしく、ずっと殻に籠っている。
唯一、ウサギの…慧の話だけは聞きたがるらしい。
勝手だと思う。本当に身勝手で弱く、自己的な人間。もしこれがウサギの親じゃなかったら俺はなんの興味も関心も持たずに無視していただろう。
でもどんな人でもウサギを生んでくれた人だから。俺の元へ届けてくれた人だから丁寧に扱いたい。
2階へと上がり扉の前に立った。正直この部屋には入りたくない。だってこの部屋は元々、星一の部屋だから。
それでもノックし返ってきた返事に名前を告げる。
どうぞと言われてもノブに手を触れた。さっきウサギが触れた場所。
ただのドアノブが特別に思えた。
「こんにちは」
微笑んだ俺に彼女は泣いたばかりの顔を向ける。
見放して傷つけて、弱ったところを見せて。そして励まされたんだろう。その目には前まで無かった光が灯っていた。
「うちの慧君、いい子に育ってたでしょう?」
「まさか話を聞いてくれるとは思わなかった。あんな風に言ってくれるなんて…」
そうやって泣くのは卑怯だ。泣いて縋れば許されるなんて思わないでほしい。俺のモノを傷つけた罪は重たい。たとえ過去だとしても容赦しない。
変に自分を繕うことはせず、思ったまま告げる。
「そうやって弱々しい姿見せつけられたら責めるに責められないでしょうね。何を言われたかは知らないですが、許してもらえたなんて勘違いしない方がいい」
一瞬でもまた一緒に暮らせる日を夢見たのだろうか、彼女が悲しそうな顔をした。でも悪いけど俺はそんなに甘くない。
「これで約束は守った。息子さんはいただきますね」
目の前の女が諦めたように頷く。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
638 / 1234