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歩がここに来るまでまだ少し時間がある。仕方なく俺は由良さんを駅まで連れて行ってあげることにした。
というのも口で説明しても、地図を書いても全然わかってくれないからだ。
「ごめんなー。ほんまに助かる」
「別に」
「慧君怒ってる?なぁ怒ってる?」
怒ってるんじゃなくて疲れてるんだけどな…。
由良さんのペースに巻き込まれ、振り回されるのは正直に言ってしんどい。けど悪い人じゃないから強く言えなくて我慢してるんだ。
「慧君のそれさぁ」
俺の左手のブレスレットを由良さんが指さす。
「初めて会った時付けてへんかったよな。前の時と今日は付けてる…のはなんで?」
「なんでって言われても気分だけど」
最近なってまた付け始めたブレスレット。
自分でも前に進めてる自信が持てたから付けるようになった。これを付けてると1人じゃないって思える。
「ふぅん。なんか慧君っぽくない色やな。黒って地味」
リカちゃんが俺のことを思って作ってくれたものを悪く言われてムッとする。つい表情に出してしまったのに由良さんは気にもしない。
「慧君ならもっと華やかな色のが似合うで。今度俺がプレゼントしよか?」
「いい。俺はこれ以外いらない」
「もっといいのあげるから」
由良さんの手がブレスレットに、そして俺の手首に触れる。それを咄嗟に振り払った俺に由良さんはキョトンとしていた。
「慧君どうかしたん?」
また、だ。
またあの目。由良さんは笑ってるのに笑っていない冷たい目をする。
「これ気に入ってるから大丈夫…ごめん」
「それならしゃあないな。俺も強引にしてごめんやで」
そこからは何も言われなかったけど、由良さんは時々このブレスレットを見る。そしてその度に目が鋭くなるのを俺は感じていた。
「ありがと。遅らせてもてごめんな!」
駅に着いて改札に向かう由良さんが俺に礼を言う。それに小さく頷いて俺は背中を向けた。
早く戻らないと、と足を進めかけた俺に背後から呼び止める声がかかる。
「慧君!!今度遊びに行かへん?」
「いや、俺テストもあるし無理だと思う」
「息抜きも必要やし、な?」
確かにそうなんだけど今の俺にそれはダメなんだ。
今までずっと逃げて、見えてないフリしてたから…これからはちゃんと頑張るって決めたから。
頑張って1秒でも早くリカちゃんのところへ帰るって決めてるから寄り道なんてしてられない。
「由良さん、俺頑張りたいんだ。待っててくれる人がいるから今やらなきゃいけない」
「1日が無理なら半日でもええんやで」
「ごめん。俺その人の為にって決めてるから」
由良さんは楽しい人だし、一緒にいると疲れるけど嫌なことを考えなくて済む。でも俺はそんなの求めてない。
半日でも立ち止まっていたくない。
「ごめん」
「慧君は俺のことが嫌い?もう少ししたら俺向こうに戻るのに、それでもあかんの?」
真っすぐに俺を見てくる由良さんに答える。
「由良さんのことは嫌いじゃない。でもごめん」
きっとこれで由良さんと会うのは最後だろうなと思った。何回も断った俺を嫌になっても仕方ない。
けれど由良さんはにっこり笑った。
「嫌われてないならええねん。今度こそ慧君からの連絡待ってるから!」
「え?!だからしないってば!」
「そんなんわからんやろ?気が変わるかもしれんし」
離れていた距離を詰めるように歩いて来た由良さんが俺の耳元で囁く。
「俺な、気に入った子は何があっても手に入れる主義やねん。慧君は今俺の中でダントツ1番」
そう言って俺の頭を撫で、目の前で笑う。
「俺は、何がなんでも1番になりたい」
「…1番?」
「じゃあまたな!」
今度こそ改札に消えていく背中。一体なんだったんだ?
その姿が人並みで見えなくなって俺は元いた店まで戻ることにした。既に歩のバイトは終わってる時間で、遅刻は確定だ。
人通りの多い駅前で、信号待ちをしていた黒い車がいることに気付いた。ハンドルを握ってこちらを見ていた黒い2つの瞳、その目が合って瞬時にそらされる。
青信号になったと同時にスピードを上げて走り去っていく黒い車。助手席には誰も座らせない車。
俺はそれを見間違えたりしない。
どんなに似ていても、たとえ同じ車種だったとしても運転してるアイツのことを間違えたりなんかしない。
あれは絶対にリカちゃんだ。
あからさまに俺を無視したリカちゃんが目の前を通り過ぎて行った。
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