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知り合いらしいリカちゃんと由良さん。でもその関係はどう見ても良いとは思えない。
なぜなら、リカちゃんが誰かをここまで言葉に出して悪く言うのは珍しいからだ。
「俺への用事って何?わざわざ学校の近くまで来なきゃいけないほど大切な」
『大切』の部分を強調して言ったリカちゃんの視線が俺と拓海に向く。その目が離れろって言ってる気がした。
俺は拓海の腕を引き、ゆっくりと後ずさる。
「仕事。これ明日までに終わらせろや」
由良さんが着物の袖口から取り出したUSBを放り投げた。手渡しじゃなく、わざと投げたソレが地面に転がる。
「あぁ…悪いなぁ。手元が狂ったわ」
「へぇ」
リカちゃんがUSBに歩み寄り、身体を屈めて拾い上げた。その瞬間に由良さんが動く。
拓海を握っていない方の俺の手首を掴んだ。
「ーっ痛!」
いきなり掴まれ、上へと持ち上げられた手首が鈍く痛んだ。
「なぁ、これの何がいいん?」
その問いかけはリカちゃんへ。何がどうなってるのかわからない俺を置いて2人の会話は進む。
「ちょっと優しくしたったら簡単に釣れる。こんな見目が少しいいだけのアホを選ぶ理由がわかれへん」
締め付けれた手首がギチギチと痛み、呻く俺を由良さんは蔑んだ目で見下した。拓海が俺の腕を掴んで身体を引いてくれるけど、引っ張りあいになって余計痛い。
「慧を離せ!離せってば!!」
「うっさい。脇役は黙っとけ」
言い合う拓海と由良さん。お互い力を緩めないどころか、ますます強くなる。両肩が外れそうなほどの痛みに声すら出せずに唸った。それに気づいてくれた拓海が手を離す。
ふん、と鼻で笑った由良さんは拓海から顔をそらしリカちゃんに向き直る。
「品の無い顔に見合って教養も無い。いくら負い目があったとしても、こんなん隣に置くなんて血迷ってるとしか思われへん…理佳にはもっと合うやつが───」
俺をバカにする言葉は途中で切れ、由良さん自体が全く見えなくなった。それはリカちゃんが俺と由良さんの間に入ったから。
俺の手首を掴んでいた由良さんの手を、リカちゃんが握ったからだ。
「触るな」
低く冷たい声。
それは今まで聞いたことのない声で、怒鳴ったわけじゃないのに鳥肌が立った。
あの夜に俺を身代わりとして抱こうとした時とはまた違う、刺々しさを含んだ声だった。
「聞こえなかったのか?触るな、と言ったんだけど」
俺の手を掴む由良さんの力が抜けていく。その代わりに目の前にあるリカちゃんの手が小刻みに震えていた。
その理由は力を入れて由良さんの手を握っているからだろう。
リカちゃんの手に筋が浮かぶ。
「由良」
名前を呼ばれた由良さんの肩が跳ねた。リカちゃん越しに見える由良さんの瞳が揺れ、完全に力の抜けた手から俺は逃げた。
由良さんを離したリカちゃんが俺を庇うように立ち塞がる。
その背中が俺にもう大丈夫だって伝えてくれる。
俺を守ってくれたリカちゃんにしがみけば、回した手で背中をぽん、と叩いてくれた。
「リカちゃん…」
「大丈夫」
その一言で俺だけじゃなく拓海まで安心させるリカちゃんはすごい。俺と拓海は顔を見合わせて頷き合う。
1人面白くなさそうな由良さんが口を開いた。
「アホちゃうか…そんなやつ庇って。こんなとこ見られたらお前終わりやんけ」
「自分の守りたいものを守って何が悪い」
「今の今まで気づかんかったやつが何言ってんねん。そんな大事なら首輪でも付けとけや」
鼻で笑った由良さんにリカちゃんは一切動じない。
「お前が俺の周りをコソコソ嗅ぎ回ってることなんて知ってんだよ。まさかこいつにまで手出すバカとは思わなかったけどな」
火花を散らす2人。だけどそれは対照的だった。
感情的になって語気を強める由良さんと、どこまでも冷静でどこまでも淡々としているリカちゃん。
由良さんがどれだけ挑発してもリカちゃんは乗らない。
「反対押し切ってまで教師なったくせにそんなクソガキが理由で辞めるんか?アホくさ」
「くだらないかどうかを決めるのはお前じゃない。お前に何を言われようと俺はなんとも思わない」
リカちゃんは怒ってるけど何か違ってた。
どこか…何かが違うんだ。由良さんが嫌いとかそういう単純なものじゃなくて、でも決して好きではなくて。
その答えはリカちゃんが口にした言葉で出る。
「昔から何度も言ってるだろ。俺はお前に興味ないって」
由良さんのリカちゃんに対する言葉や仕草が嫌悪とか憎しみとか、そういった激しいものなら、リカちゃんの由良さんに対する感情は無だ。
その視線や態度で由良さん自身に無関心なのがわかる。
「俺は興味ないやつに構ってるほど暇じゃない。用が済んだならささっと帰れ」
振り返ったリカちゃんが俺の身体を押し、近くに立っていた拓海に声をかけて場を去ろうとする。
「今度はその子を殺す気か?」
何を言われてもリカちゃんは立ち止まらない。
「求められたら誰でもいいくせに!」
振り返ることなく歩みを進める。
「自分が楽になれるから…せやから、そいつと一緒におるんやろ?!弟身代わりにしてるだけやんけ!」
リカちゃんの足が止まる。
由良さんがリカちゃんの背中に向かって言った言葉は、リカちゃんがどれだけ自分を責めているか知ってる俺にとっても許せないものだった。
「奪ったやつと奪われたやつが一緒におるなんて運命はなんて残酷…って自分に酔いすぎやわ。そんなんしてもお前はクズのままで誰からも相手にされへん」
追いついてきた由良さんがリカちゃんの腕を掴んだ。
「お前なんか必要なくなったら捨てられるねん。その子もいつかお前を置いて行くに決まって、」
その手を乱暴に振りほどいたリカちゃんは眉すら動かさず言い放つ。
「俺に触るな…虫唾が走る」
それは由良さんが少し前に言った言葉と同じだった。
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