アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
673
-
「虚しくならんの?」
そう聞く由良さんは無表情で、でも声は落ち着いていた。また怒鳴られたり殴られたりすることはなく、淡々と続ける。
「自分が理佳に思われてるって自信あるん?」
俺もずっと不安だった。
自分に自信がなくて、リカちゃんを心からは信じられなかった。
「あるよ」
けれど、それは間違ってるってみんなが教えてくれてわかったことがある。
「言っとくけどな、アイツは俺のことが好き過ぎて頭おかしい」
俺の為に悪者になって俺の為に土下座までして、寂しいって泣くんだから。でもって簡単にキレるしスイッチ入ると見境つかなくなるし。
そういうのを見てると自分はアイツの特別なんだってわかる。俺と由良さんは違うんだって思える。
雨がまた強くなってきて、俺は校舎に戻ろうと後ずさった。
「何しに来たか知らねぇけど帰れよ。こんなとこ見られたらもっとリカちゃんに嫌われるぞ」
オッサンには反応しなかった由良さんの肩が動く。
「なんやて?嫌われる?嫌ってるんは俺の方や!」
ムキになって自分が嫌いなんだって言い張るのを見てると、そうとしか思えない。
「ほらな。アンタやっぱりリカちゃんが好きなんだろ。だからそうやって突っかかって構ってもらおうとしてんだろ?」
由良さんはすっげぇわかりやすい。
嫌いだ嫌いだって言いながらリカちゃんとの過去を話したり、嫌がらせに来たって言いながらリカちゃんにわかるように行動したり。
まるで自分を見てるみたいで複雑な気分になる。
「アンタが好きだって認めても、俺はリカちゃんを絶対に渡さないけどな」
「あんなん俺はいらんし」
他人のことなら冷静にわかるのに。素直にならないから余計おかしくなっちゃうんだって、由良さんはそろそろ気づくべきだ。
悔しいけど俺よりも長い付き合いで、俺の知らないリカちゃんの過去にこの人はいる。
「じゃあ帰れよ。もう来なきゃいいじゃん」
負けないって思いつつも嫉妬の気持ちは隠せず、俺は由良さんを突っぱねた。何かを言い返される前に言いたいことを言ってやる。
「どうせ方向音痴って言ってたのも嘘なんだろ。じゃなきゃ1人で来れるわけねぇもん」
「なんや…前と違って冷静やな」
「冷静っつーか俺、アンタ怖くないから」
何を考えてるかわかんないから怖かった。それが無くなって思うのは1つだ。
「俺はアンタみたいにならない。リカちゃんを信じるし傷つけるようなことはしない」
由良さんが足元の小石を蹴って舌打ちをした。俺を睨む顔は上品さとか全くなくて考えてることがモロバレだ。
言い当てられて悔しいってのと、俺みたいな子供に偉そうに言われて腹立ってるのとで醜く歪む。
「俺もう行くから」
黙った由良さんを放って俺はその場を立ち去った。もしかしたら後ろから殴られるんじゃないかって心配で思わず早足になる。
なんとか校舎まで戻り、由良さんが見えなくなったところで柱の陰に隠れた。
「あー……ビビった。まだ心臓バクバクしてる」
開いたままの傘を廊下に転がし、手のひらを見た。
本当はすっげぇ怖かった。その証拠に手は震えてるし寒いのに汗までかいてる。
ドキドキが収まらなくて声だって震えそうだ。
「良かった。俺、ちゃんと1人で出来た」
何度か深呼吸して教室に戻る。
今学校を出たらまた由良さんに会うかもしれない…そう思うと、次あの人と2人きりになるのは無理だって結論に至って、しばらく時間潰しの為に勉強を再開した。
雨はまだ上がりそうにない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
673 / 1234