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火事場のクソ力?火事場の馬鹿力?よくわかんねぇけど、そういうのって本当にあるんだって知った。
机の上に並べられたプリントには60点台後半や70点超えの数字が並び、数学にいたっては80点近くもある。
もうここまでいくと俺って実は天才なんじゃないかとも思える…が、目の前で揺れる1枚の紙が「それはない」って教えてくれた。
あの英語が…難しいと噂されてた英語が…まさかの50点台。このままじゃ俺は負けてしまう。
残るはリカちゃんが作った、もう1つの方の英語だけだ。
昼休みになって、いつもの3人で屋上で過ごしながらも俺は頭の中で残りの1つが何点なら平均70点いくかをずっと考えていた。どれだけ計算しても80点代後半が必要な現実は変わらない。
「終わった。俺の人生が終わった」
絶望のせいで全く味がわからなくなってしまったメロンパンを俺は残した。それを奪った拓海が一気に食べた後に言う。
「慧テストできたって言ってたじゃん」
もう開き直ったのか拓海は赤点ギリギリだったテスト用紙を紙飛行機にして遊びだす。足元に落ちてきた紙を開いてみると右上に大きな字で30点と書かれている。
それは、ばっちり赤点だった。
「なんとかなるって。大丈夫!」
なんともなってない拓海に言われてもなんの説得力もない。もちろんそれで俺の気分が上がるわけもなく、テスト用紙を元通り折り直して拓海に返した。
魂まで抜け落ちそうなほど深いため息をつく俺に歩が話しかけてきた。
「慧あと何点いんの?」
「85点以上」
「無理だな」
即答されて俺は頭を抱える。あのクソ難しい英語のテストさえなければ余裕だった!リカちゃんに教えてもらった数字で高得点を取って褒められるはずが、もう1人の英語担当のせいで一気にピンチだ。
全てを決めるのはリカちゃんが作った英語。
俺が数学の次に苦手で、1人きりで勉強した…意地悪ライオン先生の英語。
「あと1つか…」
「英語な。兄貴が作っ方の、バカなお前が1人で勉強した英語な」
「わかってること言うなよ!!」
いちいち余計なことを言う歩を睨んで、その手に持っていたタバコに飲んでいたお茶をかける。
「なにすんだよクソウサギ」
「ちょっと点数が良かったからって調子に乗ってんじゃねぇぞブラコンあゆ君」
歩は俺よりも点数がいい。多分クラスでもトップレベルだ。だからって偉そうにされんのは嫌で睨み合う。
「その点数だって桃ちゃんのお陰のくせに」
「お前だって兄貴に教えてもらってんじゃねぇかよ」
「俺は英語は自力でしたし!」
「その結果が50点台とかバカじゃねぇの。あ、バカだから50点台か」
金髪にバカ呼ばわりされて震える俺と、ニヤニヤしながら見下す歩の間。その隙間にポトリと白い物体が落ちる。
風に吹かれたソレはコロコロ転がって俺たちの間を移動し、投げた本人の元へと戻った。
「ん?どうした?」
にこにこ笑う拓海に、まさかの黒たっくんが降臨かと俺と歩の言い合いは止まる。
黙って見守る俺たちの前でもう一度、紙飛行機を飛ばした拓海が振り返った。
「終わったんなら教室戻ろっか。飛行機飽きちゃった」
拾った紙飛行機をポケットに乱暴に突っ込み拓海が立ち上がる。それを追いかけるようにして俺と歩も腰を上げ、後に続いた。
「あ、そうだ歩」
拓海が真後ろにいた歩を見上げる。その身長差は15センチ以上…なのに拓海が怯む様子はない。
「慧がバカならそれより点数悪い俺は大バカ?それともクズ?」
「は?」
拓海はにっこり笑ったまま歩を見上げ、口調はいつも通り明るい……のに、その笑顔はどこか黒い。
暗いんじゃなく黒いんだ。
「必死に勉強した慧に対してあの言い方はないだろ。確かに点数は良くなかったかもしれないけど、ああやって見下して言うのは絶対にダメ。友達だとしてもダメ」
自分よりも小柄な相手に説教された歩が固まる。
「わかった?人の努力をバカにしない」
「別にバカにしたわけじゃ…」
「何か言うことは?」
俺を見た歩が視線をそらせ、首に手を当てながら小さな声で言った。
「……悪かった」
完全に拓海に負けた歩な浮かべるのはすっげぇ悔しそうな顔。頷くと今度は拓海が俺に注意する。
「慧も。たとえ教えてもらってでも歩が頑張ったのは本当のことだろ。いちいち突っかからない」
「俺は悪くないだろ?!歩が先に、」
「慧。歩は謝ったのに慧は出来ないの?」
俺は悪くない…悪くないはずなのに……それなのに拓海が怖い。リカちゃんに似た有無を言わせない感じがする。
「言い…過ぎてごめん、歩」
謝った俺に拓海は満足そうに階段を駆け下りていく。最後の1段で躓いて転び、恥ずかしそうにこちらを見上げた。
鳥飼拓海…こいつも謎が多いやつだ。
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