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香水を買うついでに他にも何か見て回ろうとリカちゃんが俺を連れて来たのは百貨店だった。とは言っても、そこは若者向けの店も入ってるすげぇデカいところ。
駐車場から中へと入り、館内地図を確認したリカちゃんが向かうのは目的の店とは真逆の方向だ。
「どこ行くんだよ」
「え?」
「そっちは逆。なんで地図見たばっかりで間違えるんだよ」
正しい道へ向かう俺にリカちゃんが並ぶ。リーチの長さが違うから、俺に歩幅を合わせてゆっくりと歩みを進めてくれていた。
店に着けばリカちゃんは他に目もくれず目的の物へ直行だ。それ以外にもたくさん種類があるのに全然悩んだりしない。
たまには他の物を…っていうのはリカちゃんにはないらしい。
俺は棚に向かって立つリカちゃんの隣に並んだ。
「リカちゃんってそれずっと使ってるよな。他のやつに変えようと思わないの?」
「思わないな。使い分けることはあっても俺の本命はこれだから」
「ずっと使ってたら飽きそうだけど…」
たしかにいい匂いだし、リカちゃんのイメージはこの匂いなんだけど。それでも何年も使ってたら飽きると思う。
そう聞いた俺にリカちゃんは首を傾げた。
「飽きる?なんで?」
「なんでって…ずっと同じだと他も試したくなるじゃん」
「ふぅん。そういうもんなのか…考えたこともないし飽きるってのもよくわからない」
箱を眺めながらリカちゃんは続ける。
「特別だと思ったなら大事にしたいし他と比べたりしたくない。比べなきゃ良さがわからないようなら、こんなに夢中になったりしない」
「…お前さ、香水相手に何クソ寒いこと言ってんの?」
これだけ大事にされたら香水も嬉しいだろう。自分の物を大事にするリカちゃんが両手に箱を持って俺に向き直した。
「お前もついでに買っとく?それとも他のに変える?」
「同じのでいい」
黙って持った2つの箱を手に、レジへと向かうリカちゃんの服の裾を掴んだ。
「なに?やっぱり他のにする?」
聞かれたことに首を振って、でも恥ずかしいから顔は見ずに俺は答えた。
「……同じのでいい、じゃなくて同じのがいい」
「は?」
「俺、本屋で参考書見てくるから!!」
パッと手を離して走って逃げた。すっげぇ顔が熱いし振り返れない。
リカちゃんはさっき俺が言った意味に気付いたんだろうか…。
同じのでいいんじゃない。『リカちゃんと同じのがいい』って意味だって言いたかったんだけど上手く言えない。本当は目を見てちゃんと言いたかったのに結局は言い逃げてしまった。
恥ずかしいのと顔の赤みを抑えるために、着いた本屋で参考書探しに没頭する。良さげなのを何冊か選んで、今度は問題集のコーナーへと移動した。
そんな俺を見つけたリカちゃんが隣に立って吐息だけで笑った。
視線は参考書に向けたまま俺から話しかける。
「なんだよ…別にさっきのは深い意味はないからな!」
「はいはい。それより欲しい参考書ってどの教科?」
「数学。前のテストでちょっとわかるようになったから何冊かやろうと思って」
俺の手元にある参考書や問題集を見たリカちゃんが、1冊だけを残してその他は棚に戻してしまった。
せっかく選んだのに…不満な俺の頭を大きな手がそっと撫でる。
「あんまり欲張って一気にしない方がいい。焦っても結果には繋がらない」
「でも、」
「お前の進路希望見たよ。まさか終業式の日に置き逃げされるとは思ってなかったけど」
無理だって、無謀過ぎるって言われるかと思って俺は進路希望の紙をギリギリまで出せなかった。終業式の日にリカちゃんの机の上に隠して帰った。
それを見たリカちゃんがなんて言うのか…ちょっとドキドキする。
複雑なまま見上げたリカちゃんと目が合って、その口角が上がった。
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