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守られるだけじゃダメで、与えてもらうだけじゃ何も成長しない。でもそれと同じように守ってばかりで、与えてばかりでも何も変わらない。
いつも1人で全部抱え込んできたリカちゃんが、2人を選んでくれたことが嬉しくて手に力が入る。
「理佳」
お爺さんがリカちゃんを呼ぶ。
「それに兎丸君…だったかな」
続けて俺を呼んだ。
顔を上げた俺たちに容赦なく向けられるのは好奇の視線だ。男同士で歳の差があって…それなのに俺を選んだリカちゃんと、こんな所までついて来た俺に対しての。
その視線を気にしてるのは、やっぱり俺だけで、リカちゃんとお爺さんはお互いを見つめあって会話を進める。
「理佳に聞きたいんだが、こんな紙なんて出さなくても断ればいいだけの話じゃないか?」
「それじゃあ意味が無いって爺さんもわかってるだろ?俺は綺麗に清算して次に進みたい」
どんな目で見られてもリカちゃんの決意は揺るがない。リカちゃんはすると言ったらする男で、俺に嘘をつかない男。だから誰に何を言われても自分を貫く。
「俺が少しでも残れば由良はまた何か言ってくる。あいつは、何でも1番じゃなきゃ気が済まないからここまでしないと納得しない」
納得したのか、頷いたお爺さんが見たのはリカちゃんのお父さんだった。
「いいのか?息子がこう言っていて父親として何も思わないか?」
「そりゃ少しは思いますけど…」
反対されてももう後戻りは出来ない状況でリカちゃんのお父さんの声が部屋に響く。
リカちゃん同様に頭のぶっ飛んでるその人が言う。
「こうなったらもう1人子供作ろうかなって。そうしたら父さんも寂しくないでしょう?今度は理佳や歩みたいに生意気な子じゃなくて可愛らしい女の子を」
「……お前に聞いた私が馬鹿だった」
お爺さんから鋭さが消え、俺は息を吐いた。怒鳴られるんじゃないか、殴られるんじゃないかって心配していた肩の力が一気に抜ける。
「兎丸君。うちの孫は融通が利かなくて自信家、それでいて心配性で君に迷惑をかけていないだろうか」
「あ、はい…いや、迷惑はかけてない…ですけど」
その分すっげぇ意地悪されて寝かせてもらえない日々が続いてます、そう心の中で付け加える。
「君ぐらいの年の子なら欲しい物もたくさんあるだろうにね」
お爺さんの言葉に、なんて答えようか考えて…思ったことを言う。嘘が通用しない人を、この俺が騙せるわけないからだ。
「別に無くても生きていけるなら特別欲しいとは思わない……あ、でも新商品のチョコは買えなくなると困るからバイトはします」
「新商品のチョコレート……」
素直に答えろって言われたから答えたのに周りから笑われてしまった。
それを、この家に入る前に俺に言った本人が隣で呆れた顔をして口元を押さえる。
「なんだよ」
「お前さ、いくら収入減っても菓子ぐらい買ってやれるから」
「そうなのか?それなら問題無いな」
「お前は俺を何だと思ってんだよ…そこまで甲斐性なしだったら転職してる」
うんうん、と頷く俺とため息をついたリカちゃんをお爺さんは笑いを堪えて見守ってくれる。お父さんは声を出して笑ってくれる。
意外にも2人の雰囲気が歓迎ムードに変わって安心した。
こんな展開ならもっと早くにこうしてたらいいじゃないかって思ってしまう。こんなに大げさな事をしなくても良かったんじゃないかって。
でも…それは自分がまだ子供だって思い知らされる結果となって返っくる。
みんながみんな幸せにはなれない。みんなに理解されたいっていうのは理想なんだって現実がやって来る。
「必要な書類が揃ったら送ってくれ。ここへ直接持って来なくていい」
お爺さんがリカちゃんの置いた紙を1通だけ受け取り立ち上がった。穏やかだったはずの空気がピリピリと張り詰める。
「あとはお前たち親子で決めればいい。私とお前は今この瞬間から他人、用が済んだら早く出て行ってくれ」
和やかな雰囲気が壊れて告げられたのはリカちゃんへの別れの言葉。
もう他人だとみんなの前で言われたリカちゃんは、お爺さんを見る。黒い目が瞼で隠され、薄く笑った。
「ありがとうございます」
リカちゃんが礼を言って最後にまた頭を下げた。お爺さんが部屋から出るまで下げ続けた頭。もう他人だなんて酷いこと言わなくたって、出て行けなんて言わなくてもいいのに。
それでも顔を上げたリカちゃんは笑っている。そして、リカちゃんのお父さんも笑っていて…俺だけがまた何もわからない。
けれど胸の奥が痛い。
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