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「そうだ、夏に来た時に言い忘れてたことがある」
ニッと口角を上げる笑い方はリカちゃんが嫌なことを思いついた時の笑い方。俺に対しては意地悪する時で、他人に対しては叩き潰す時の笑い方だ。
「婚約おめでとう」
「お前っ……ほんま最低」
「なんとでも。これは毎回言ってることだけど、」
そこで言葉を切ったリカちゃんは、今度は満面の笑みを浮かべた。この流れに嫌な予感しかしない俺は不安になる。
その不安は当たっているらしく、隣に立つお父さんが「ああ、やっちゃったな」って呆れた声を出した。
自分のことを好きだと言った相手に対して、リカちゃんは悪魔のようなことを笑って告げる。
「俺お前に全く興味ないからさ、お前が誰を好きで誰と結婚しようがどうでもいいけど……いくら俺が好きでも子供に理佳ってつけるのはやめろよ?」
爽やかすぎる表情と声で言い切ったリカちゃん。
冬空に肌を打つ乾いた音が響き、由良さんの「二度と来るな!」の声がこだました。
リカちゃんを押し退けた由良さんが家へと入っていく。
その途中で目が合って、思いっきり睨まれたけど何も言われなかった。てっきり悪く言われると思ったのにチラッと見られただけだった。
「痛ってぇ…叩かれたのより爪で引っ掻かれたのが痛いんだけど」
叩かれた頬を押さえたリカちゃんが俺たちを振り返る。ヘラッと笑って見せられた頬には、くっきりと手形がついている。
「なんでビンタなんだよ…男なら拳でくるだろ」
「それより殴られたことには何も思わないのかよ」
殴られたことに関しては怒っていないリカちゃんに俺は聞いてみた。すると呑気な声で返事が返ってくる。
「計画通りすぎて拍子抜け。もうちょっと張り合いあるかと思ったんだけどなぁ…」
「計画?」
手形付きの顔でふふんと笑ったリカちゃんが人差し指を立てた。それを振り、教師面をしながら得意げに言う。
「まだまだ甘いな慧君。この俺が考えもなく殴られると思うか?」
カッコつけて言っても真っ赤な跡の所為で全然決まってない。俺の代わりにお父さんがそれを指摘するとリカちゃんはゴホンと咳払いをした。
「ここで俺と由良が揉めたって広まれば俺はもっとこの家に近付けなくなる。爺さんと由良の両方に反感を買った俺を誰も呼び戻そうとはしないだろうな。ビンタ一発で自由になれるなら安いもんだろ?」
リカちゃんのセリフに俺は震えた。その理由は怖いからでも感動したからでもない。抑えていた怒りでだ。
「っ…お前……俺の心配を返せ!」
「やっばぁ…慧君が俺の心配してくれるなんて最高のクリスマスプレゼントだな」
ニヤニヤ笑うリカちゃんに俺は近づく。ジッと見つめること数秒、首を傾げたリカちゃんに手を伸ばした。
由良さんが付けた跡に手を当てる。
「いい加減にしろ!!!」
1度目よりも大きな音が鳴る。容赦なく同じところを叩いた俺にリカちゃんが頬を押さえてしゃがみこんだ。
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