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大事なことを言われたはずなのに、頭が考えるのをやめて目の前にいるリカちゃんを見つめた。
笑いながらもその目は真っすぐと俺を見ていて、その言葉が冗談じゃなく真剣だって伝わってくる。
「今、なんて?」
受けとめられない俺にリカちゃんが返事を返す。
「さあ?そのうちわかると思うよ」
「そのうちじゃなくて今!今がいい!!」
「やだね。だって慧君もご褒美は後でって言ったし」
お返しとばかりにリカちゃんが眉を嫌味に上げた。初めから言うつもりなんてなかったくせに、期待させるのは卑怯だ。
「リカちゃんの性悪」
チケットを封筒に戻し、無くさないよう紙袋に直すと中にはもう1枚白い紙が入っている。
それは軽いけど、どこか重たい。なにか大切な意味が含まれた紙を俺はしっかりと握る。
「リカちゃん、これ何?」
「これ?……あぁ、戸籍謄本」
『戸籍』って言葉に身体が反応した。
リカちゃんのお父さんも言っていたその言葉をリカちゃん本人から聞いて、俺の頭の中にどうしようが溢れる。
期待してなかったわけじゃない。あれだけのヒントがあって何も思ってなかったわけじゃない。けれど、いざその時になると、まさか…としか思えない。
「これの意味が知りたい?」
聞いてくるリカちゃんに俺の緊張はどんどん上がっていく。
「どうして俺があそこまでして家から離れたか、教えてほしい?」
リカちゃんは俺から視線をそらさなかった。本当に教える気があるのか無いのか、判断できなくて睨む。
「なんで睨むんだよ。お前にも関係あるから知りたかったら教えてやるけど」
「じゃあ教えろ」
「ここは即答するんだ?わかりやすいね慧君」
リカちゃんが俺の手から奪ったそれをテーブルに置き、ぎゅっと抱きしめてくれた。
密着すれば服越しに小さな振動が伝わってくる。それはリカちゃんにしては早いスピードで脈打ち、俺の鼓動の音と1つに合わさった。
「俺は慧と家族になりたい。前はどんな形でもいいと思ってたんだけど…今はお互いの為に家族って形をとりたい」
お前の為にが口癖だったリカちゃんが言う『お互いの為に』はすげぇ重たい。それはリカちゃんがずっと求めてきたことで、いつも一方的に与えてばかりだったリカちゃんの本音だ。
「だから全部捨てちゃった。慧君が俺の家族になってくれるなら、もう何も要らない」
またいつものように事後報告で、またいつものように強引に進めたリカちゃんが催促する。
勝手に決めてんじゃねぇって話なんだけど、それでも答えを欲しがる。
「慧君、泣いてないでお返事は?」
「…これ……プロポーズ?」
「まさか。する時はもっと特別な場所で、特別な言葉で言うに決まってんだろ」
そう言った顔があまりにも自信たっぷりで、俺は目の前にあったリカちゃんの首筋に噛みついた。
がじがじと噛んでもリカちゃんは笑って俺の頭を撫でるだけだ。
「…っ、もしリカちゃんが浮気したら噛み殺してやる」
「絶対にしないから何してもいいけどさ…してないのに噛まれてんのはなんで?」
「ただ噛みたい気分だっただけ」
「どんな気分だよ。噛み癖のある奥さんか」
少し身体を離したリカちゃんが考える素振りを見せた。
けれどそれはフリだけですぐに笑顔になる。
「やっばぁ……いいね、そういう気分屋なところも」
リカちゃんという俺にとっての『完璧』なヤツに包まれ、長くて甘い2日間が終わっていく。
最後は聞き取れなかったけれど、俺にはなんて言ったかわかった。
「愛してるよ、慧君」
きっとこれに違いない。
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