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疑いをそのままに睨めばリカちゃんは本当に不思議そうな顔をするだけだった。
「もしかしてさ、お前何か勘違いしてないか?」
「べっつに。俺と他のヤツを間違ってんじゃねぇのか、とか俺は連れて行かないくせに他のヤツは連れて行ったんだとか思ってねぇし」
俺のセリフを聞いたリカちゃんが頷いた。
半ば呆れつつも俺の勘違いを解いてくれる。
それは俺が想像もしていなかった、想像したくもなかったことだった。
「俺が売ったっていうのはこのマンションのことなんだけど。誰が自分のマンション持っててわざわざ他の部屋買うんだよ」
リカちゃんが言い終わったタイミングで電話が鳴る。聞こえた電子音はリカちゃんのスマホの着信音で、画面に映る名前は桃ちゃんだった。
この後みんなでご飯に行く約束をしてるからだ。
電話に出ようとしたリカちゃんの手を俺は止める。
「リカちゃん…もしかして引っ越すのか?あの部屋出て行く気?」
そんなことあるはずないって思いながらも心臓が大きな音でばくばく鳴っている。
頭はリカちゃんが俺から離れていくわけないって言うのに、心はもしかしてって緊張する。
俺が1人焦ってもリカちゃんはちっとも変わらない。
「1月にはあの部屋を出る。もう買い手も見つけて手続きも済んでる」
淡々と答えた後、リカちゃんが電話に出た。すぐ近くにいるのに桃ちゃんとの会話が何も聞こえない。
リカちゃんが引っ越してしまう。もうすぐ隣からいなくなってしまう…もうこうやって毎日のように一緒にいられない。
握った旅行誌の表紙がぐしゃりと歪んだ。
「もうみんな店に向かってるって。俺たちもそろそろ出るぞ…ってどうした急に」
俯き黙る俺の肩にリカちゃんの手が乗る。それを払った俺は、勢いよく立ち上がった。
ほんの数日前に2人でいようって言ったくせに、また勝手なことして俺に教えてくれない。どこに住もうがリカちゃんの自由…ってそんなの納得するわけない。
「リカちゃんの……っ…リカちゃんの嘘つき!!!お前なんか知るか!」
短すぎる俺の我慢ゲージがいっぱいになった。近づこうとするリカちゃんに向かい、手当り次第に物を投げて応戦する。
「ちょ、待って。慧君落ち着いて」
「てめぇ仲直りしたからって何しても許されると思うなよ!!」
「何してもって俺何もしてないから。なんでそんなに怒るんだよ」
「はぁ?!なんで?なんでって言った?信じらんねぇ!」
スーツケースに入っていた着替え、タオル、それからリカちゃんが俺用にって買ってきたウサギのパジャマ。目に入る全てを投げつける。
「今日こそは騙されないからな!!」
最後に近くにあったそれを掴む。なかなか重たかったけれど、両腕で思い切り振り下ろした。
バサッと大きな音を立てた向こうで、顔を押さえたそいつが出した低い声が聞こえる。
「い……った」
ご自慢の顔に赤い筋を浮かべたリカちゃんが、無表情で俺を見た。
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