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目の前が歪んで、咄嗟に机に手をつく。目頭を押さえて数秒、回っていた視界が元に戻り深いため息をついた。
年々忙しくなる仕事に身体がそろそろ悲鳴を上げそうだ。
酷使しすぎた目を休めようとコンタクトを外し、ゴミ箱へと捨てる。そのまま椅子に座り込んで出るのはやっぱりため息。
ここ最近、慧の様子がおかしい。少し前までは寂しがっていたはずなのに今じゃ俺を避けてる節があり、昨日なんか早々に寝てしまって会話すらしてくれない。
仕事部屋にこもってる俺を隠れて覗いていたことや、トイレに立つ度にこちらに近寄ってきたり…俺がキッチンに何か飲みに行けば過敏に反応したり。
それが今では一切ない。
何か悩んでるのかと思いきや、学校では普通だ。嘘をつくのが下手な慧が歩や鳥飼をごまかせるわけもなく、募るのは疑問と不安。
怒りを通り越し呆れたのか…考えたくはないけれど愛想をつかされたのか。
ぐるぐる考えても埒はあかず、至急の仕事を終えた俺は学校を出た。少し寄り道してケーキ屋へ寄り、目についた商品を頼む。
慣れない機嫌取りに頼み過ぎた商品が両手を塞ぐ。男子高校生相手にどれだけ買うんだ、と思いつつも助手席にそれを置こうとして…やめた。
後部座席に置いた箱が崩れないよう慎重に車を進める。
また無駄遣いだと怒られるかもしれない。けれど、それが2人の会話のキッカケになるのであれば、無駄になんてならない。
あいつは箱を開けた瞬間、どんな顔をするだろう。
1番に何を選ぶだろうか、嬉しさを隠した顔で「こんなに買ってバカか」って言った後に小さな声で「…ありがと」なんて言ってくれるかもしれない。
眼鏡の奥の目が自然と細まる。今日はやたら赤信号が多いけれど、それすら気にならず家へと戻った。
出来るだけ音を立てないよう玄関を開け部屋に入る。わざと足音を殺して向かった先のリビング。
そこには誰もいない。
リビングだけじゃなく寝室にも、風呂場にもトイレにも、もちろん俺の仕事部屋にも…クローゼットの中にもいない。
28歳になる誕生日の2日前。去年は喧嘩したから、今年こそはするまいと、寂しいと言われたら無理をしてでも相手してやろうと決めていたはずなのに…!!
やけに聞き分けがよく、おとなしいと思っていたら、まさかの行動に出やがったクソウサギ。
ソファに座り込んだ俺の視界に1体だけ残されたうさぎのぬいぐるみが映る。そいつが何か持たされているのを見つけて手を伸ばした。
それはお世辞にも綺麗とは言えない字で書かれた俺へのラブレター……なんて可愛いものじゃない。普段は口が悪いくせに、その怒りを表すかのような丁寧な口調で記されたそれ。
『実家に帰らせてもらいます』
どこで覚えてきたのか、お決まりの一言を残し、慧が家出をした。
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