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悔しいのか、腹立たしいのか。
自分の感情がわからん。
ただ、今俺の目の前にある姿が、
薄い肩が、細い腕が
震えてるのを見たくない。
「⋯もう夜遅いし、外寒いから。な?」
「⋯⋯。」
取っ手から手を離し、ゆっくりこっちを向いた。
「⋯わかんないんだよ。この先どこに行けばいいのか、どこにいればいいのか。」
強く拳を握って、ぽつりぽつり、言葉を零す。
「サンタにはわかんないよ。数ヶ月前の自分の記憶がないなんて。自分が何者かも知らない。
知りたい⋯⋯けど、きっと俺、思い出したら多分⋯」
そこまで言いかけて、カクンと膝を折って倒れた。
「⋯っ、まきまき!?大丈夫!?どしたん!?」
「⋯⋯なんか⋯っ、からだ熱い⋯」
「顔赤ない!?ベッドまで運ぶから、俺の肩に腕かけて!」
どうしたんや。急に。顔熱いし、けどさっきまで何ともなかったし⋯
だらんと力の抜けた身体を、ゆっくりベッドに降ろす。
「まっててや、今水持ってくるから」
熱でも出たんやろか⋯一応、体温計と氷嚢も持ってくか。
辺りを見渡して、ハッと気づく。
さっきまきまきに渡した缶ジュース、よく見たらジュースじゃなくてアルコールの文字が入ってる。
「うっそやろ⋯⋯」
完全にやってもーた。
じゃあアレはついさっき飲んだアルコールが効いてきて、酔いがまわってるってことか。
やばい。フツーに間違えて買ってきた。
そういえばまきまき、このジュースまずいとか言うてたな⋯
部屋に戻り、氷嚢をまきまきの額に当てる。
「まきまき、大丈夫?吐きそう?」
「⋯だいじょうぶ⋯ちょっと、ぐらぐらする」
「まきまきごめん、さっき渡したんジュースじゃなくてチューハイやった⋯」
「⋯は?」
「お酒でした⋯今のまきまきはほろ酔い⋯いや、かなり酔っていると見受けられます⋯」
「そっか⋯⋯⋯⋯わざと?」
「ちゃうちゃう!!ちゃうよ!!本気で間違えた!!」
「ふふ⋯まぁいいけど」
見たところ気分悪くはなさそうやし、落ち着くまで一緒におろう。
「⋯さんた」
「ん?なんや、水か?」
「ちがう⋯⋯い、たい」
「いたい?」
「⋯⋯痛い」
「えっ、どこ、どこが痛い!?」
寝たままやったら苦しいのか、起き上がり、胸の辺りを掴んで背中を丸める。
なんか、アルコールアレルギーとかそういうのかもって思って急いでスマホ取りに行こうとしたら、
「まって、行かないでさんた⋯ッ、」
「待ってって⋯痛いんやろ!?今救急車呼ぶから⋯」
「⋯い、らない、行っちゃやだッ⋯⋯!」
俺の服を掴んで、助けを呼ぶのを拒む。
どうしたらいいんか、このまま痛いのがおさまるまで近くに⋯
「ま、まきまきっ、確か持病あるとか言ってたよな!?それか!?」
頭を横に振る。まだ苦しそうに、胸の辺りをおさえてる。
「⋯ごめ⋯⋯きょうっ、おれおかしくて⋯
ずっと、このへん⋯っ、いたいんだ⋯」
「この辺⋯?心臓か?心臓が痛いんか?」
「んっ⋯むねの、あたり⋯⋯痛くて、ずっと苦し⋯ッ」
胸の辺りが、痛くて苦しいって
しかも今日、ずっとって。
そんな顔してへんかったやん。
普通に振舞ってたやん。
「⋯っさんた、」
いつもそうやん。
嘘つくんほんま上手やんな。
辛いんやったら、アルコールの力なんて借りんと辛そうな顔したらええのに。
いっつもニコニコ笑って、笑顔で隠して。
「いたい⋯っ、ズキズキする⋯」
「まきまき、やっぱり救急車⋯」
「よしよし、して⋯っ、」
「⋯え、」
「おねがい⋯よしよしして⋯っ、心臓のうえ、」
「こっ、こう⋯?」
そっと、胸に手を当てる。
どくん、どくんって、強く脈打って、胸の上に置いた俺の手を、弱くもしっかりと握る細くて小さい手。
弱ってくなかで、絞り出した声。
「⋯⋯鬼塚にあいたい」
「⋯うん。」
「あいたい⋯ッ、好かれてなくてもいい⋯っ、から、」
「⋯だいじょうぶ。大丈夫。」
「⋯すき⋯⋯すごく、好きなんだ⋯⋯」
ぽたり。
シーツに雫が落ちる。
ぽたぽたと、俺の腕にも、
止まることなく雫が落ちた。
「まきまき⋯っ、」
待ちわびてた泣き顔。
嬉しい。はず、やのに。
「⋯大丈夫、大丈夫やからっ、まきまき、」
呼んでも返事なくて、
ただただ泣き声が大きくなっていく。
「⋯なぁ⋯ッ、泣かんといて、まきまきっ⋯」
気付いたら抱きしめてた。
腕の中で、小さい身体が震えてる。
まきまきがこうして欲しい相手が、俺じゃないことは知ってる。
俺が、りゅーくんやったらいいのに。
絶対泣かさへんのに。絶対、一人にせぇへんのに。
いつでも抱きしめたるし、待ち合わせ場所にも遅れへんし、浮気もせぇへんし、言って欲しいこと全部言ったんのに。
「⋯⋯さん、た、苦し⋯ッ、」
なぁ、なんでアイツなん。
どこが好きなん。あんなやつの。
こんな苦しい思いするくらいやったら、
⋯いっそ、
俺のこと、好きになればええのに。
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