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いいにおい
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お風呂から上がってタオルで髪をゴシゴシしながら、玄関へ向かう。
鬼塚の靴がないなんていつものことなんだけどな。
今日はまた一段と寂しい日だな。サンドイッチは朝食べよう。つーか、こんな事でクヨクヨするな俺っ!いつもの事だってわかってんだろ!もうっ!!
両頬をつねって正気に戻ったら、さっさと歯磨いて寝る!楽しい事考えとけば自然と楽しくなってくんだから鬼塚の事なんて忘れよう。
そう言えば明日慎太郎が最近はやってる漫画持ってきてくれるって言ってたな⋯楽しみ。
洗い物して、つけっぱなしだったテレビを消そうとリモコンを探している時、
ガチャンと、玄関の扉が開く音がした。
俺は、その音を聞いた瞬間リモコンのことなんて忘れて、気づいたら駆け出してた。
勢いよくリビングの扉を開けて、廊下の先に人影があるのを見て、泣きそうになった。
「⋯⋯おっ、鬼塚⋯?」
返事がないから、恐る恐る近寄って廊下の電気をつけてみると、壁にもたれかかって額に手を当てている鬼塚がいた。
「だ⋯っ、大丈夫⋯?具合悪いの⋯?」
そっと、鬼塚を見上げた。
目が合うと、鬼塚は壁から体を離して、ふらふらと足を一歩、また一歩と俺の方へ寄せる。
「鬼塚っ、⋯⋯えっ、ちょ、わっ!!?」
ふっと力が抜けたように、俺めがけて倒れてきた。間一髪で支えるも体格に差がありすぎて、支えきれなくなった背中が反り返ってドミノ倒しみたいに倒れてしまいそうになる。
「ちょっとっ!!鬼塚っ、おもいんだけど⋯⋯!!」
むり、ちょ⋯俺だけでこの体重支えんのは無理だってば!!
「鬼塚ってば!!起きてっ!俺死んじゃうからぁ⋯っ」
「ん⋯」
なんとか体制を立て直して起き上がり、体が離れようやく重みから開放された。不安定な足取りで自室に入っていこうとする鬼塚は、ほっといたら大変なことになりそうで怖い。
こんなに具合悪そうな鬼塚見たことないし、それにこのにおい、鬼塚のにおいじゃない。お酒と、なにか不自然に甘い香りがする。
もしかして、これって⋯⋯
「鬼塚、女の人のとこ行ってたの⋯⋯?」
ぴたり、動きが止まる。
その瞬間、あぁそうかと自分の中で勝手に理解した。
「あっ、ごめ⋯⋯今お水持ってくるから」
⋯余計なこと聞いたな。
別にいいけど。今までもそうだったし。
慣れてるはずなのに、ずしりと心に重い何かが乗っかって、痛い。
小走りでキッチンに向かい、水道水をコップに注いだ。
ふと、テーブルにおいてあるサンドイッチが目に入る。
今思うとバカバカしくて、とてつもなく悔しくなった。食べてもらおうなんて考えてないって、言い聞かせて鬼塚の居る部屋に向かった。
コンコン、と二度ノックして返事を待つ。
「鬼塚、入るよ⋯?」
ゆっくり、音を立てないよう取っ手をひねる。
部屋の電気はついていない。廊下の明かりで、なんとか部屋の真ん中にテーブルがあるのが見えた。
鬼塚はきっと奥のベッドで寝てる。寝息がかすかに聞こえて、胸の奥がくすぐったくなった。
「⋯水、机の上に置いとくから」
「⋯⋯。」
返事がない。
やっぱり寝てるんだな。
俺も早く寝ないと。
早く寝ないとなのに、この部屋から出ていったら前と何も変わらない気がして
もっと近くにいたいけど、俺がここにいる理由がない。
何かもっと、俺がここにいていい理由が欲しい。
「⋯⋯あっ、お風呂湧いてるよ。あと洗濯もしておいた⋯⋯から⋯」
こんなことしか言えない自分が情けない。
もっと他に言いたいこと、
俺が伝えたいことってなんだ。
「⋯⋯寝たの⋯?」
テーブルにコップを置いて、足音を殺してベッドの前まで近寄り、しゃがみこむ。
すぐそこに鬼塚がいる。
呼吸に合わせて自然と上下する分厚い肩。
触りたいな⋯
「ねぇ、鬼塚⋯」
女の人のとこになんて行かないで、ずっとここにいたらいいのに。
なんて言ったら俺のそばにいてくれるんだろう。
なんて言えば、振り向いてくれるのかな。
「俺ね、」
聞こえてたらいいな。
伝わってたら、それでいい。
「俺⋯⋯好きな人、いるの。」
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