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くらくらする。
お酒の匂いか、まだ唇に触れた時の感覚が残ってるせいか。
「⋯まき、おい」
「⋯っ!」
まただ。近付いてくるあの大きな手の平に掴まれたら、今度こそ逃げられない。
「触んな⋯ッ!!」
手を払い、なにか隠れるものはないかと引っ掴んだ布団にくるまってなんとか視線から逃れた。
この布団を剥ぎ取られたら俺はもうおしまいだ。逃げようがない。
もうこいつのペースに飲まれるのだけはごめんだ。
なにかしらリアクションすると思ったけど、鬼塚は布団を剥ぎ取ることも、部屋から出ていくこともせずただじっとベッドの上に座ってた。
どうにかしてこの部屋から抜け出せないか。布団の隙間から様子を覗いて、はっと息を呑む。
鬼塚は、
俺の方を向いてうつむいて、小さく口を開いて言った。
「⋯お前が、
泣く、から⋯」
⋯⋯は?
何言って⋯
「早く帰らねぇと、お前が⋯⋯泣くから、」
途切れ途切れに、大きな体に似つかわしくないか細い声が漏れた。
俺が泣くからって、つまり、どういうことだ。
「でも⋯結局泣かせたな」
金色が混ざった前髪が、自信なさげに揺れる。体は俺に向いているのに、視線が交わらない。
俺はいつの間にか自分から布団を脱いで、ただ呆然と鬼塚を見つめてた。
だって、言葉の意味がわからない。
「お⋯っ、女の人のとこ⋯行ってたんでしょ⋯?」
「⋯あぁ。」
なんで、そこで俺が出てきたの。
女の人より俺のことを選んでくれたって、そういうこと?
ほんとに⋯?
「⋯⋯ねぇ、おにづか⋯」
「⋯何だよ」
「さっき⋯なんで、その⋯」
ぼうっと頬が熱くなる。言葉にすると、思い出して恥ずかしくなって胸がきゅうって痛くなる。
怖いけど、鬼塚の中に少しでも俺の存在があるなら、知りたい。
「⋯わかんねぇよ」
「えっ」
俺が全部口に出す前に、鬼塚はぼそっと呟いた。
そして、少し困ったように眉間にシワを寄せて、大きくて暖かい手で俺の頬を優しく撫でた。
「⋯わかんねぇよな。お前。」
繰り返し言う。
割れ物に触れるように、そっと、指を肌に添わせながら。
「⋯⋯怖い奴。」
そう言った後、スイッチが切れたかのように、気力を失くした鬼塚は俺の横に寝そべった。
体がまだ火照ってる。胸に手を当てると、心臓がドクドクと早く脈打ってるのがわかる。身体が、もっと触れて欲しかったって言ってるみたい。
疲れていたのか、鬼塚はもう寝息を立てている。酔ってたからかな、もう明日になったら今日のことは忘れてるかもしれない。
忘れられるのってイヤだな。鬼塚もそうだったんだろうか。
鬼塚は俺に、過去にあったことを思い出してほしいのかな。けど、俺はまだ心の準備ができてない。
思い出したらなにか、今こうして形を保っているものがなんなく崩れていってしまいそうで、怖い。
人を好きになるって怖いことだらけだ。
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