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鬼塚のにおい。
胸の奥がぎゅうって締まって苦しくなる。
安心するけど緊張する、不思議なあたたかさをもってる。
勢いよくベッドに降ろされ、スプリングがギシギシと音を立てながら2、3度上下した。
冷たくなったシーツが、鬼塚の視線が、ぼやけた頭を覚ますのに丁度良くて。
「お前、馬鹿だろ。」
「へ、」
ボソッと吐き捨てながら、大きな体は俺にのしかかる。
「こんな痕まで付けられて、よくそんな間抜けヅラできんな。」
このまま首でも締められるんじゃないかって思うくらい、不機嫌なのがピリピリと伝わってきて。怖くて身体が震えた。
「⋯っとに、ムカつくんだよお前。」
俺の襟元を掴み、ベッドへ押し付ける。ゴツゴツした拳が鎖骨をぐりぐりとえぐるよう。
痛くて、声も出なかった。
「俺の次は賛田か。忘れてんだかなんだか知らねえけど、とんだ淫乱だな。」
「なに、それ⋯」
どういう意味なんだろうか。
俺は何も、忘れる前のことは覚えてない。鬼塚がイライラしてる理由も分からない。
「どうせ賛田にも同じように強請ったんだろ。そんなに襲われたいか、お前」
握られて、ギリギリまで張った襟元が首を絞める。
息、出来ない。怖い。
目を瞑って耐えようとしたけど、いろんな感情で心臓が締め付けられる。
「⋯⋯ッに、づか、」
固くて太い手首を、なんとか振りほどこうと握りしめる。だけど、1ミリも動く気配はない。
どうしよう、俺このままだと窒息死する。死んじゃう。
頭に血が上って、もうダメだ、と思った瞬間、あんなに固く握られていたてのひらが離れていった。
「⋯ッ、けほっ、げほ、」
体を起こし、首が締まって苦しくなったのを和らげようと胸をさする。
だけど、どれだけ落ち着かせようとしても、胸の奥は痛いまま。
残った鬼塚の体温が、視線が、ズキズキと全身を痛めつける。
「⋯っは、はぁっ、」
息を整え、鬼塚に視線を戻すと、すぐに目が合った。
今まで向けられたことなない、冷たい目だった。
怖くて後ろに後ずさりするが、背中が壁に着いた途端、嫌な予感がして。
「⋯来いよ。キス、して欲しいんだろ?もっとしてやるよ。」
ぐ、と混み上がる恐怖を抑え、拳をぎゅっと握った。
「まき、」
びく、と肩が震える。
低くて暗い声。
「こっち見ろ」
声が近くなり、ベッドが軋む。
暗い中、俺の方へ伸びる大きな手の影を目の端で捉え、身構える。
首元に触れる体温。サンタに付けられた痕を、形を確かめるようになぞる指。
てっきり殴られると思っていたもんだから、少し肩の力が抜けた。
「おっ、おにづか⋯?」
俺が微かな声量で呼ぶと、鬼塚の口から舌打ちが聞こえた。
「⋯賛田が、アイツがこんな痕付けるだけで済ますとは思えねぇ。」
「⋯え、」
「他に何された?」
鋭い眼光。それに耐えられず、また視線を逸らす。
「別に⋯な、にも」
それが気に入らなかったのか、再度、より大きな声で聞き返す。嘘は通用しない、とでも言うように。
「賛田に、何されたか言え。」
「ぁ⋯⋯っ、う、」
「まき」
サンタは、最後まで優しかった。
触り方も、声も、表情も。
サンタがつく嘘は、誰かを想ってのことなんだなって、おもう。
「ほっ、ほんとに何も、されてない」
「⋯あ?」
「さっ、んたは、優しいし、お前みたいに俺のこと⋯っ、」
じわり、目が熱くなる。
俺、何を言おうとしてんだろう。
どうしてこんなに苦しいんだろ。
「⋯俺のこと、嫌い、じゃないし⋯」
なんで、こんなこと言っちゃうんだろう。
「嫌いじゃねぇよ」とでも言って欲しかったんだろうか。
こんなこと言えば「じゃあ賛田の所にでも行けよ」って言われて突き放されることなんて容易に想像できたのに。
馬鹿だな。俺。
「⋯何言ってんだお前」
ほら。どうせ呆れられて終わりだ。
もう聞きたくない。
聞きたくない。
「嫌いも何も、お前のことなんてなんとも思ってねぇよ。」
「⋯⋯うん。」
わかってる。
わかってるんだから、今は笑わないと。
俺だけが本気だってバレちゃう。
笑って誤魔化さないと。
だけど鬼塚の顔を見たら泣きそうで、頷くしかできない自分が情けなかった。
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